古いマンションでは、耐震診断を実施して、現行の耐震基準を満たすことで、耐震基準適合証明書を受けることができ、住宅ローン減税や不動産取得税の軽減措置が適用できることがご存知の方も多いと思います。
また、耐震診断の結果、耐震基準に適合しない「不適合」の結果となってしまっても、耐震補強を行って耐震基準適合証明書の発行を受けることで資産価値を高めた古いマンションもあります。

しかしながら、住みながら耐震補強をする場合は、補強場所の制限、騒音、粉塵、振動など、工事のある階だけでなく、すべての階に影響がでます。そのため「耐震工事は大変」というのが一般に浸透しています。さらに費用的にも高く、工事期間は半年以上を要します。
このような理由もあり、耐震補強が必要なマンションは全国数多く残っており、「震災は弱者に襲いかかる」といわれるように、補強設計が困難な建物がほとんど手つかずで残っているのが現状です。
住みながら耐震補強をする場合には、生活にある程度の負担を強いられますが、本当に耐震補強に効果があるのかを考えてみましょう。
耐震補強すれば壊れない!?
度重なる地震被害から、学校校舎の耐震化が進められ、現在では99%超まで耐震化が進められてきました。
学校施設は、子ども達の勉強や生活の場であるとともに、地震などの災害時には地域住民の避難場所等ともなることから、耐震化によって安全性を確保することが極めて重要でした。そのため、耐震診断や耐震補強の知見が多く蓄積される結果となっています。
この学校の地震被害から耐震診断・補強について学ぶことで、古いマンションの耐震診断・補強の重要性について考えてみましょう。
過去の地震被害
耐震診断・耐震改修の必要性が明らかになった地震被害といえば、1995年の阪神淡路大震災です(それを受け同年に耐震改修促進法が施行)。

この被害特徴は、1981年以降に建設された建物の被害(新耐震)はそれ以前のもの(旧耐震)に比べて非常に少なかったことが挙げられます。
学校では、耐震診断判定指標Is値が0.6以上あれば概ね被害は抑えられていることが分かっています。

また、2011年東北地方太平洋沖地震でも同じような結果となっています。

これらからも、補強してIs値0.6以上とすることで建物被害を小さくすることができることが分かると思います。
しかし、耐震補強した結果壊れてしまった建物や、熊本地震のような連続する地震に耐えられなかった建物の被害事例が多くあります。
耐震補強すると弱くなる!?
2016年熊本地震では、耐震工事を済ませた学校などに被害が出てしまいました。学校などに求める耐震基準は「震度6強以上の地震で倒壊・崩壊の危険性が低い」ことです。
つまり、震度6強以上の地震に「1回」に耐えることは出来ましたが、熊本地震のような繰り返し発生した強い揺れに耐えることはできませんでした。
このように多くの自治体は現行の耐震基準を満たすところまでしか対応しておらず、現行基準がより厳格な対策を結果的に妨げていた側面も指摘されています。

また、耐震補強済の建物の被災による取り壊し事例があります。
例えば、東北大学人間・環境系研究棟では、78年宮城沖地震(竣工後9年目)ではひびが入る程度の被害でしたが、2011年東北地方太平洋沖地震では耐震補強した結果、柱の地震力の負担が増えて大被害が生じてしまいました。

もちろん、建物の老朽化や地震の継続時間の違いなどの影響はあったと思いますが、耐震補強の有効性に疑問を持たざる得ない結果となってしまいました。
このように地震リスクとして顕在化しているのが、過去の被災による損傷の累積です。例え耐震補強したとしても、度重なる地震によって見えない部位で損傷が累積すること、それらが重なることで建物に大きな被害をもたらす可能性があります。
これらの事例から、耐震補強されていても、古いマンションほど地震リスクは大きくなることをしっかり理解するべきだと思います。