狭い路地の梨泰院(リテオン)での転倒事故

事故など

韓国ソウル市内にある梨泰院は、もともと旧米軍駐屯地があった場所で、外国人が多く居住しており、多国籍、多文化の街としても知られています。また人気ドラマ「梨泰院クラス」の舞台としても知られています。

今回の事故現場付近には、グラブやバー、飲食店が密集しており、人が集まりやすい反面、裏路地など狭い道路が点在する場所です。

ソウル雑踏事故

事故当時、梨泰院(リテオン)では10万人以上が詰め掛けていたと報道されており、群衆雪崩で死者154人のうち99人が女性、7割が10から20代という大惨事になりました。

群衆雪崩の場所は、幅約3.2m、奥行きは約40mあり、それほど急勾配の場所ではありませんでした。事故直前の写真が多数WEBにアップされていますが、ほとんど身動きが取れない状態だったことが分かります。

複数の証言では、立ったまま意識が亡くなった方が多数に上ることが分かっています。現地の事故直前の動画などを確認すると、道の両側から人の波が押し寄せており、後戻りしようにも、動くことできない状況になっていました。

また、群衆雪崩による死者が増えた理由として、各地から救命に来ていた救急車や消防車が現地に近づけなかったことや、交通整理する人員を配置していなかったことなどが指摘されています。道には路上駐車が列をなし、現場に辿り着けず、辿り着いたとしても、そこから人を掻き分けて行くしかなく、相当な時間を要することになってしまいました。

実は同月の15から16日に開催された梨泰院地球村祭りでは、事前に予定されていた祭りだったため、警察による警備や交通整理などの対策が行われていました。今回のように主催者がおらず、自発的に集まってきたハロウィンイベントだったため、十分な対応ができていない結果だったとも言えます。

過去の群衆雪崩を振り返る

多くの人が高密度で集まると群衆雪崩が起きるのは、過去から知られており、同じような類似したことが起きました。後ろの人が前の人を押し倒し、連鎖反応でバタバタと折り重なっていきます。

日本でも2001年7月兵庫県明石市で行われた花火大会でも群衆雪崩とみられる転倒事故が起き、歩道橋付近で11人の方が亡くなられています。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/saigai/select-news/20191202_02.html

当時、歩道橋では会場に向かう観客と帰路につく観客が報道の上で押し合いになり、大規模な転倒事故につながりました。死者11人のうち9歳以下のこどもが9人、負傷者は247人に上っています。

群衆雪崩に巻き込まれると身動きが取れず、後ろを振り返ることも前を向くこともできず、とにかく上を向いて呼吸するしかない状態になります。力の強い男性の場合は、周囲を押し返す力もあり、自力で呼吸は確保し続けることはできますが、女性や子供は群衆に埋もれて、呼吸もできない状態になると考えられます。

また、事故の分析では、考えられないような超過密状態であり、1m2に15人ほどがいる状態になることが明らかになっています。このように自分で立っているのではなく、お互いにもたれ合っている状態であり、そのような状態でエアポケット(隙間)ができると、その隙間に向かって雪崩を打つように人が折り重なる現象が起きることが分かっています。この大事故による死因は「圧死」で、一人の上に200キロから300キロもの圧力が掛かっていたとも言われています。

群衆雪崩を防ぐには

今回の事故と同様な事故は世界中でも起こっており、今回の事故のように対面方向にぶつかるような場合、1m2あたりの人数が5から6人程度でも群衆雪崩れが起きることが分かっています。一方で、一方向であれば1m2あたり10人程度でも群衆雪崩が起きないことが知られています。

事故の共通点としては、人の流れのバランスが崩れるところを起点として発生しており、例えば斜面や階段などがあります。特に平地から階段になると通過能力が半分になるため、階段は平地の倍以上の幅が必要になることも分かっています。

また、こうした群衆雪崩のきっかけは、人の不規則な動きが起因した可能性も示唆されています。例えば群衆の中で、スマホを落として、拾うためにしゃがむとかが起きると、そこを起点にして事故が発生します。さらにその事故でパニックになった人が、さらに不規則な動き(押し返して逃げようとするなど)で大きな力が加わり、その先で転倒が発生することも十分あり得ます。

このような事故を防ぐために、海外では一部専門性の持った「群衆マネジャー」が設けられている国もあり、例えばアメリカでは大勢が集まる場所で250人に一人、群衆を整備する方がいないといけない法律が定められています。この方が、警察、自治体、企業、鉄道事業者などの媒介となり、リスクを共有する取り組みが成されています。また群衆マネジャーはリスクや責任の共有だけでなく、どの場所がどの程度危ないか、そこにどのぐらいの人員が必要なのかを判断してくれる存在になっています。

最新情報(2022/11/2)

韓国の法律では歩行者が通る道は4m確保することが義務付けらており、事故が起きた通りに面するホテルの迫り出した部分によって道幅が3.2mになっていました。ホテルの出入り口も3.2mしか確保できておらず、鉄製の仮設フェンスも通行の流れを妨げる要素になっていました。

ホテルの出入り口も3.2mしか確保できていない

また、事故発生前に深刻性を知らせる緊急通報(日本でいう110番)が多数あったことが警視庁より発表されました。さらに事故現場から約250mの位置に消防拠点となる119安全センターがあり、徒歩3、4分の距離だったにも関わらず、4車線の道路が多くの人でごった返しており、消防が到着したのが事故発生から40分以上掛かっています。もちろん先行して到着した警察官や消防は指示を出していましたが、そもそも人が多すぎて動けない状態となっていました。警察が1車線を救急のために確保したのは、午後11時50分頃であったと言います。さらに前述した祭りでは一方通行にするなど歩行者の導線をコントロールしていましたが、主催者が不在だったため、これらも行われていませんでした。いずれにせよ結果として防げた事故だった可能性が高くなっています。

最新情報(2022/12/24)

新たな取材やビデオカメラの映像から事故の全貌が明らかになりつつあります。死者は158人に達し、群衆雪崩先頭から7.5m範囲に集中しています。また人が倒れたことで、その部分が坂の上から見た時に空いているように見えてしまい、そちらへ長時間に渡り押し込もうとする力が働き、現場付近にいた人が身動きが取れなくなり、救助活動にも影響したことが分かっています。

一方で事故現場に備え付けられた防犯カメラからは、事故発生時刻午後10位15分までは人が両方向に流れていることが確認されています。しかし発生4分後には流れが止まり心配そうに見つめる人の姿が確認され、一瞬にして群衆雪崩が起こったことが分かっています。

また、群衆雪崩の特徴として、坂の下へ向かってドミノ倒しのようになったわけでなく、様々な方法に倒れたことも確認されています。密度が上がると色々の方向から押されるため、気を失って倒れると空間ができそこに人がなだれ込みます。

タイトルとURLをコピーしました