本来は住んではいけない土地に住宅地が整備されている現実

ハザードマップの見方

2020年8月28日から家を買ったり借りたりする時には、宅建業法改正で水害リスク(洪水・雨水出水・高潮)の説明が義務化されました。

不動産業者は、宅地建物取引業法に基づき、買い主や借り主の判断に重要な影響を及ぼす事柄を「重要事項説明」として話すことが義務づけられています。

これまでの「重要事項説明」では、災害に関係するものとして、

【1】造成宅地防災区域

 (地震などによって地盤の滑動などの災害が発生する恐れが大きい区域)

【2】土砂災害警戒区域

 (急傾斜地の崩壊等が発生した場合、住民の生命または身体に危害が生ずる恐れがあり、警戒避難体制を特に整備すべき区域)

【3】津波災害警戒区域

 (津波が発生した場合、住民の生命または身体に危害が生ずる恐れがあり、津波による人的災害を防止するために警戒避難体制を特に整備すべき区域)

があり、これに浸水想定区域 (河川の氾濫、雨水の排除ができないことによる出水、高潮による氾濫が起きた場合に浸水が想定される区域)の説明が加わりました。

具体的には、次の4点が求められています。

<水害リスクの説明義務の具体的な内容>

【1】水防法に基づき作成された水害(洪水・雨水出水・高潮)ハザードマップを提示し、対象物件の概ねの位置を示すこと

【2】ハザードマップは、市町村が配布する印刷物又は市町村のホームページに掲載されているものを印刷したもので、入手可能な最新のものを使うこと

【3】ハザードマップ上に記載された避難所についても、併せてその位置を示すことが望ましい

【4】対象物件が浸水想定区域に該当しないことをもって、水害リスクがないと相手方が誤認することのないよう配慮すること。

具体的には、水防法の規定に基づいて作成された水害ハザードマップにおいて、対象の物件の所在地が示されることになります(仮に所在地が浸水想定区域の外にある場合でも、水害ハザードマップにおける位置が示されます)。

本来は住んではいけない土地に住宅地が整備されている現実

「令和2年7月豪雨」では、九州、中部、東北地方をはじめ、広範な地域で甚大な被害をもたらしましたが、ハザードマップで浸水が予想されている区域と、実際に浸水した区域はほぼ重なっていました。

「令和元年東日本台風(台風第19号)」で浸水した区域も同様に、ハザードマップで、浸水想定区域となっていた区域で、多くの住宅が浸水しました。

また、浸水想定区域内に住む人の数は増加傾向にあります。 特に浸水リスクの高い地域の宅地化が進んでいるためです。

つまり、治水事業が行われても洪水が減らないのは、宅地には不適とされてきた川沿いの低湿地で宅地造成が進んだため、新興住宅地を襲う水害は全国的に増えています。

例えば、主に関東や東北地方の台地に特徴的な「谷津」と呼ばれる地形があり、これは丘陵地が長い時間をかけて侵食されて出来た谷状の湿地です。

地域によって呼び名が異なり、千葉県では谷津(やつ)・谷津田(やつだ)、神奈川県、東京都では谷戸(やと)、東北地方では谷地(やち)と呼ばれることが多くなっています。

このような場所では、洪水や液状化など災害が生じることもあり注意が必要です。

自然災害を地名から探る方法

がけ崩れ・土石流・地すべりは斜面、洪水や津波は低地など、地域の特性により特定の災害が起こりやすい場所があります。

宅地の造成などにより、元の地形が分かりにくくなっている場合にも、地名を手掛かりとして、その土地の特性を知ることができます。

下の表に示すのは災害に関連する地名の一部です。

災害に関連する地名

災害が起こりやすい地形の名称が残っているところだけでなく、新しい地名がついた造成地についても、田や谷を埋めて作られた場合には盛土の崩壊や地震による液状化が生じることもあり、注意が必要です。

災害地名については、上記の他にもさまざまなものがあります。

本来は住んではいけない土地

また、地元では「本来は住んではいけない土地」に新興住宅地が整備され、被災するケースが増えています。

例えば、広島県では平成26年8月豪雨の土砂災害77人が亡くなり、平成30年7月豪雨の土砂災害で118人が亡くなりました。

広島土砂災害
写真:毎日新聞「広島土砂災害 住宅地には新しい家も…きょう3年」

広島市にある阿武山(標高586メートル)は平均斜度が20度という急峻な山で、山裾から崖錐(扇状地)が広がっています。

この阿武山では、1960年代から開発がはじまり、山手に住宅が建てられるようになりました。それでも洪水や土砂災害を避けるため、低い土地や山際には住宅を建てないという暗黙の了解があったそうです。

しかし、人口が増加してくると、次第に不文律が破られるようになり、山際にも住宅地が広がります。

そして1999年には広島市や呉市などで30人以上が犠牲になる土砂災害が起きましたが、開発の勢いが止まることはありませんでした。

この間にも「土砂災害防止法」が施行され、宅地開発への本格的な規制が始まっていましたが、土地の価値を下げたり、不動産取引に悪い影響を与えることから、土砂災害のおそれがある区域の指定が十分でありませんでした。

さらに、災害リスクを抱える地域の開発規制は、地元の反対で見送られることが多くありました。なぜなら市街地の郊外で宅地開発すれば、若年層向けに安格で住宅が販売でき、自治体の人口増につながるからです。

災害後、あっという間に住宅地が整備され、数年後には過去の記憶が薄れていき、そうした地域に居住することでさらに被災リスクが高まっていきます。

住まいを選ぶときに、災害リスクを知ることの重要性はますます大切になっています。

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