荒川は氾濫するのか、しないのか。台風19号からその確率を考える。

水害ハザードマップ

2019年台風19号では、関東甲信や東北では記録的な豪雨になり、河川の氾濫や堤防の決壊、土砂崩れなどが発生しました。

特に東京都荒川流域にある5つの区(江戸川、墨田、江東、足立、葛飾)では、荒川の堤防が決壊するのではないかという状況の中、大規模な調節池や遊水地などにより被害から逃れました。

その時の状況から今後、荒川は氾濫するのか、しないのかを考えましょう。

荒川は氾濫するのか、しないのか。台風19号からその確率を考える。

記録的な大雨を降らせた2019年台風19号では、河川の水位を下げるために水を溜める大規模な調節池や遊水地などが、総貯留量の9割に達していました。

茨城、栃木、群馬、埼玉4県にまたがる日本最大の渡良瀬遊水地は、総貯留量約1億7千万トンのうち、過去最大となる約1億6千万トンをため込みました。

また、下流に東京都葛飾区や足立区、埼玉県八潮市などがある中川や綾瀬川の水位が上がった際は、首都圏外郭放水路(洪水を防ぐために建設された世界最大級の地下放水路)で荒川の隣の江戸川に水を流し込み、洪水を防いでいます。

首都圏外郭放水路
図:国土交通省関東地方整備局「首都圏外郭放水路とは」

この首都圏外郭放水路には最大約65万立方メートルの水をためることができ、今回はその最大の量となる約65万立方メートルの水をためこんでフル稼働したとのことです。

首都圏外郭放水路内部
写真:国土交通省関東地方整備局

また、荒川第1調節池でも、総貯留量3900万トンのうち、3500万トンと過去最大の水を溜めたため、下流の東京都北区では、氾濫危険水位まで水位が上がることはありませんでした。

荒川第一貯水池
写真:国土交通省関東地方整備局「荒川第一貯水池概要」

さらに、都内でも同様に神田川などの水を地下に溜める地下調節池「神田川・環状7号線地下調節池」でも、総貯留量54万トンの約9割程度まで水が達していました。

朝日新聞によれば、氾濫まで53cmだったという記事もありました。

東京の下町を流れ下る荒川は、北区にある岩淵水門を分離点に、荒川と隅田川にわかれます。一定水位を超えたら水門を閉め、隅田川下流域を守ります。

岩淵水門
写真:国土交通省荒川下流河川事務所

この水門が12年ぶりに閉鎖されました。隅田川に流れるはずだった大量の水が、一気に荒川へ流れ「氾濫危険水位」まであと53センチに迫りました(朝日新聞より)。

もしも荒川が氾濫したらどうなるか

国土交通省荒川下流河川事務所が作成した「フィクションドキュメンタリー荒川氾濫」をご覧ください。

このYouTubeで氾濫箇所として想定されているのが「京成本線荒川橋梁」です。

この橋梁1931年(昭和6年)に建設され、その後、1970年(昭和45年)代までのあいだに東京下町一帯が、工業用地下水の汲み上げや天然ガス(メタン)採取などにより地盤沈下しました。この橋梁部分でも3.4メートルの地盤沈下が観測されています。

地盤が沈んでも川の水面の標高は変わらないため、堤防は川に対して相対的に低くなってしまいました。

そのため堤防をかさ上げしましたが、橋梁と線路が堤防を通り抜けている部分は、簡単にはかさ上げできず、この部分が低いままになっています。

これは荒川の水位の変化を示したグラフです。12日から上昇を続け、13日の午前2時に氾濫危険水位の12.6mを超えていました。場所によってはかなり危険な状況でした。

荒川の水位
図:NHKクローズアップ現代「同時多発 河川氾濫の衝撃 ~緊急報告・台風19号」より

江東5区大規模水害ハザードマップで浸水被害を確認する

2018年8月東京都荒川流域にある5つの区が「江東5区大規模水害ハザードマップ」洪水浸水想定区域図(浸水深)を公表しました。

この5区は、江戸川、墨田、江東、足立、葛飾で、地域内には海面より低い海抜の「ゼロメートル地帯」が広がります。

これまでに経験がないような巨大台風が都心に上陸し、荒川と江戸川が同時に決壊した場合、5区総計約260万人の人口の9割以上、約250万人が浸水被害を受けると想定しています。

図:江東5区大規模水害ハザードマップ

マップの中のもっとも赤い部分、足立区の北千住駅周辺を中心とした地区などでは、浸水の深さが最大で5メートル以上と想定されています。

また、洪水浸水想定区域図(浸水継続時間)のもっとも赤いエリアは、2週間以上の浸水時間が想定されています。これは5区全体の32%を占め、このエリアに住む人口は、合わせて100万人に上ります。

もし大雨が長く続いたらどうなるのか

もし、台風19号により豪雨が長く続いていたら東京はどうなったでしょうか。

日本気象協会によると、一級河川で被害(決壊、越水、溢水等)のあった河川を中心に、流域平均降雨量を算定し、計画降雨量と比較しています。

表:日本気象協会「防災レポート

このように台風19号の被害(決壊、越水、溢水等)は、計画降雨に匹敵する降雨量が短期間に集中したことにより、発生したと考えられます。

国土交通省による洪水浸水想定条件は、荒川流域で72時間総雨量が632ミリに達し堤防が複数箇所決壊するケースです。

ちなみに台風19号では、神奈川県箱根町での総雨量が1001ミリ(12日日降水量922.5ミリ)を記録しています。

そのほか、東北や関東甲信を中心に103もの地点で24時間降水量の観測史上1位を更新し、広い範囲で記録的な大雨になりました。

この現実を見据えると、いつ荒川流域にこうした豪雨が襲来してもおかしくありません。

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