梅雨前線の影響で2020年7月3日から降り続く記録的豪雨(線状降水帯)によって、熊本県を中心に橋の崩落や河川氾濫、土砂災害などの被害が多発しました。
一級河川の球磨川の上流から下流まで浸水区域が広範囲にわたり、人吉市では10m近い浸水深が確認されました。
球磨川は、急峻(きゅうしゅん)な山々の合間を流れる日本三大急流の一つです。
過去の甚大な被害から「暴れ川」の異名もあります。今回の大雨でも、本格的な降り始めから5時間近くで氾濫危険水位を超え、流域の浸水被害を招きました。
堤防を越えて水が流れる越水や、堤防のない箇所から水があふれる溢水(いっすい)が発生した11カ所のうち、いずれも1965年7月の戦後最大の洪水で堤防が壊れた箇所でした。
1965年の洪水も同じく、梅雨前線の停滞で降り続いた雨が7月2日夜に激しくなり、氾濫しました。
同県人吉市では市街地が広範囲で浸水し、同県八代市でも堤防が決壊。その流域で家屋1281戸が損壊・流失し、1万戸以上が浸水しました。
球磨川の過去の洪水被害は下記にまとめられています。
このような水害から命を守るには、ハザードマップで避難場所や安全な経路をあらかじめ確認し、早めに避難することが重要です。
ハザードマップで洪水・浸水想定区域、土砂災害地域を実際の被害を比べる(2020年7月熊本豪雨)
洪水・浸水想定区域を地図上で確認できるのが「重ねるハザードマップ」です。
今回は、ニュースでも取り上げられた球磨村の渡地区にある特別養護老人ホーム「千寿園」を調べてみます。
「千寿園」のすぐそばの「村立渡小学校」を入力し、検索してみます。
地図が表示されるので、左上の「洪水」ボタンを押します。
洪水浸水想定区が表示されます。
左下にある「解説凡例」ボタンを押すと水深の解説がでます。
千寿園はピンクの領域の中にあり、洪水浸水想定区域(浸水深10~20m)であることがわかります。
洪水・浸水想定区域を調べた結果と実際の被害を比べる。
上記で調べた「千寿園周辺」の浸水被害を比べます。
ハザードマップでは浸水深は10~20mとなっていますが、写真では1階窓付近まで浸水が確認できるため、実際は3m未満となっています。
参考として、一級河川の球磨川に接する小川のように、小さな支流では豪雨などで水位が高まった本流が支流の流れをせき止める「バックウォーター現象」が起きたのでないかと指摘されています。
豪雨などで川の本流の水位が上がることで、本流に流れ込むべき支流の水が、壁にぶつかるように流れを阻害され、行き場を失ってあふれ出すのがバックウォーター現象です。因みにハザードマップではこのような現象は想定されていません。
浸水スピードはどのくらい速いか
今回の大雨では、本格的な降り始めから5時間近くで氾濫危険水位を超え、流域の浸水被害を招いています。
球磨村で救助された女性によると、「朝5時ぐらいに、あっという間に水が迫って怖かった」とのこと(毎日新聞「目を覚ましたら家に水… 「暴れ川」氾濫、未明の恐怖 熊本豪雨」より)なので、上記グラフを見ても、気付いてから避難する時間もほとんどなかったと考えられます。
また、球磨川から約1キロ離れた家に一人で住む伊達政憲さん(84)のはなしによれば、
午前10時ごろ目を覚ました時には、既に家の中まで水が入っていた。水圧で玄関のドアが開かなかったため窓から脱出したが、あまりの水量で身動きがとれず、車の屋根の上へ。水位はみるみる上がり車も完全に水没、約20分で足首まで達した。「助けてくれ」。声をからして叫ぶと幸い近くにいた消防署の職員に発見され、投げられたロープにつかまり助かった。
このようにあっという間に水は流れ込み、避難するのが難しくなります。この洪水の程度(浸水深と流速)と避難との関係を整理した図があります。
成人では水深50cm程度から歩行が困難になり、35cm程度からはドアを開けることが難しくなります。浸水で避難が遅れた場合は、浸水地域から車で避難しようと思っても、60cm程度で車は止まります。この場合、水に浸かった危ない道路を移動するのでなく、自宅の2階で助けを待つ「垂直避難」が有効です。
土砂災害警戒区域を調べる。
球磨川下流域に位置する熊本県芦北町、同津奈木町では、土砂災害も目立ちました。
芦北町田川地区では、土砂災害警戒区域(急傾斜地、土石流)で土砂災害が発生し、住宅複数棟が巻き込まれました。
熊本県では、この土砂災害区域を調べることができます。
土砂災害警戒区域と土砂災害が起こった芦北町田川地区(中央の破線)との位置は一致しています。