マンションは何階が安全?危ないのは何階?

地震被害

これからマンションを購入される方から「地震で危ないのは何階ですか」とよく質問されます。上階は揺れが大きくなるから避けた方が良いのではとか、下階は上部の重量により押し潰されるのではないかとイメージを持たれる方がいます。

今回は、過去の地震被害からマンションの安全性を確認すると共に、構造以外の被害についても考えます。

マンションは何階が安全?危ないのは何階?

過去のブログでは旧耐震のマンション被害について見てきましたので、1981年以降の新耐震建物または耐震改修済みの被災建物を確認します。

ここでは、2016年熊本地震の被害調査報告を確認してみます。

平成28年(2016年)熊本地震建築物被害調査報告/国立研究開発法人建築研究所研究資料より引用

https://www.kenken.go.jp/japanese/contents/topics/2016/index.html

共同住宅A(宇土市 、建設年1998年)

共同住宅A(宇土市 、建設年1998年)

この建物は横に細長い4階建ての共同住宅で、両端には耐震壁が配置されていますが、鉄筋コンクリート造柱が並ぶ純ピロティ構造です。

ピロティ構造被害

旧耐震、新耐震基準問わずこのようなピロティ構造の地震被害が多く確認されており、この建物も同じような損傷が柱に確認されています。被災度区分判定でも「大破」となりました。

共同住宅D(熊本市東区、建設年1992年)

共同住宅D(熊本市東区、建設年1992年)

この建物は10階建てRC造マンションで、1階は駐車場となっています。奥の方に壁がありますが、この壁厚は150mmで、柱際に沿って部分スリットが設けられていました。

一見して耐震壁があると思われるかもしれませんが、これは非耐震壁扱いになり、柱だけで構成される純ピロティ構造として設計されています。

先ほど例と同じくピロティ部の柱や壁に損傷が多く発生していますが、特徴的なのは梁の損傷が大きく、スパン中央付近で2階大梁に数センチ程度のたわみが生じていることを確認されています。

特に2、3階では、コンクリートの剥落を伴うような袖壁、腰壁、方立壁の被害が見られています。

共同住宅F(熊本市東区、建設年1993年)

共同住宅F(熊本市東区、建設年1993年)

この建物は9階建てRC造マンションで、平面形状は長方形です。

被害は1階が最も大きく、共用廊下側の構面では、方立壁の多くがせん断破壊しており、ドアや窓枠が大きく変形していました。

被害は1階が最も大

バルコニー側でも、方立壁や袖壁のせん断破壊が確認され、一部の柱では柱端部の圧潰が確認されています。

共同住宅G(熊本市北区、建設年2000年)

この建物はRC造の6階建てマンションで、平面形状は長方形です。1階はピロティ構造となる駐車場階で、北側の桁行方向の一部に耐力壁が設けられています。

共同住宅G(熊本市北区、建設年2000年)

この建物はRC造の6階建てマンションで、平面形状は長方形です。1階はピロティ構造となる駐車場階で、北側の桁行方向の一部に耐力壁が設けられています。

被害は2階が最も大きく、桁行方向共用廊下側の構面では、柱、袖壁、方立壁の多くがせん断破壊しており、コンクリートの剥落、鉄筋露出、非構造壁縦筋の座屈が見られました。

ピロティ構造である1階は桁行方向の柱に取付く耐力壁端部にせん断ひび割れが見られた以外は、顕著な損傷はありませんでした。

このように比較的新しい2000年代の建物でも、非構造部材の損傷が大きく、住み続けることは可能ですが、復旧工事には相当の期間が必要になります。

これらから新耐震基準のマンションでは、地震被害は下階に集中しやすい傾向があることが分かります。あたり前ですが、下階は上部階の重量を負担しており、そのため地震力も大きくなるからです。

しかし、上層階はまた別の問題があるので、ここではわかりやすく高層マンション特有の課題として、長周期地震動の危険性や被害の特徴について確認しましょう。

長周期地震動と高層階の危険性

規模が大きな地震ほど「長周期地震動」が発生しやすく、遠方まで弱まらずに伝わり、地震発生地点から離れた場所でも大きな影響が出ることがあります。

「長周期地震動」は、揺れの周期が長く、円をかくような動きが次第に大きくなり、ゆっくりとした揺れが非常に長く続くという特徴があります。

高層マンションの構造や高さ、規模によっては、低層階に比べて、高層階になるほど被害が大きくなるおそれがあります。

この長周期地震動が生じた場合、室内の様子を実験した映像がありますのでご覧ください。

近年発生した地震被害では負傷者の3~5割の方々が屋内における家具類の転倒・落下によって負傷しています。

また、東日本大震災を受け、東京消防庁が実施した調査では、家具類の転倒等が高層階に行くほど多く発生している傾向が確認されました。

このように高層階の地震被害にも十分注意する必要がありますが、家具転倒防止なのどの対策によって防ぐこが可能です。

上階は地盤が揺れやすいと大きく揺れる

上階の揺れに大きく影響するのが地盤です。やわらかい地盤の上にマンションがあれば大きく揺れ、上階ほどその影響が大きくなります。

もちろんマンションの固有周期と地震動の性質により揺れは変化しますが、概ね柔らかい地盤上では大きく揺れると考えて間違いはないです。

ちなみに、私は沿岸部埋め立て地の14階建ての新耐震ギリギリのマンションの13階に住んでいますが、震度3程度でもテレビが倒れるなど、結構揺れます。

これは地下深く地震が起きたとき、地表近く(表層地盤)の性質が地域によって異なるため、揺れの大きさが変化するためです。この揺れの大きさを数値化したものが「表層地盤増幅率」です。

これから住む、もしくは住まれている場所の「地盤のゆれやすさ」は、J-SHIS mapで調べることができます。地盤の揺れやすさの確認は以下のブログを確認して下さい。

マンション設備などの被災

マンションは一戸建て住宅に比べると、耐震性や耐火性に優れていますが、電気・ガス・水道等のライフラインやエレベーターの停止で日常生活に支障が出るなどが考えられます。

東日本大震災での仙台市内にあるマンション設備の被害を一覧にしました(東日本大震災の被災状況について(高層住宅管理業協会)より)。

駐車機械の被害

タワー式駐車場や機械式駐車場などで被災し、使用不能になったものが、87棟ありました。

エレベーターの被害

仙台市周辺の106棟のサンプル調査では102棟中全てが停止し、当日復旧が3件、2~3日が大半で、1棟が1週間を要しています。エレベーターによる閉じ込めによる被害は1件ありました。

外構・ライフラインの被害

 

受水槽、受変電設備・引込電柱、地下埋設物等のマンション敷地内のライフラインが地盤沈下等の原因で損壊し、管理組合による復旧等の為の工事を要したものは797 棟ありました。

配管・排水管の破損配管

配管・排水管の損傷に気づかずに上層階の住民がトイレを使用し汚水を流したことで、下層階で逆流し溢れ出して大きな被害になったケースが多数発生しました。

玄関扉枠の変形による開閉不能

関扉の開閉が不能で自宅から脱出できない住戸があり、ベランダの隔て板を破り隣または2軒先から脱出したケースがあります。

高架水槽からの二次被害

地震により高架水槽が損傷しましたが、電気や水道などが止まっていたため、そのままにしていたところ、震災3日後の夜中に電気が復旧し、ポンプが作動。そのため、受水槽から高架水槽に水が送られて漏水が発生してしまいました。

このように建物構造に大きな被害がでなくても、直面するのはライフラインの停止です。

マンション自体の耐震化は進んでいますが、設備の耐震化や対策はあまり進んでいません。

このようなハード対策も重要ですが、やはりソフト対策が必要になります。

自主防災組織の活動(管理組合)

ここまでマンション被害を説明してきましたが、「マンションは管理を買え」ということばがあるように、マンションの管理状況が「マンションの価値を左右している」といっても過言ではないです。

大災害が発生すると、消防や警察などの防災機関が十分に対応できない可能性があります。

このような中でも、管理が行き届いているマンションは、災害時にも住民の皆さんが団結して防災のための自主防災組織をつくったり、また普段からコミュニケーションが取れているため、災害時には相互に助け合うことができます。

どの階が安全か、危険かも大事なことですが、どんな被害になるかを予測することは難しいことを考えると、「マンションは管理を買え」をより意味ある言葉に変えると「管理状態が良好で住民同士のコミュニケーションができているマンションを買え」ということが防災対策の上でも最も効果的だと思います。

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