新耐震基準(1981年6月から)と旧耐震基準の違いは、耐震基準の震度の大きさです。
旧耐震基準では“震度5強程度の地震では、ほとんど建築物が損傷しない”と規定されていました。ここでのポイントは、震度6以上の地震については定められてなかったことです。
しかし、昭和53年の宮城県沖地震の被害が想像以上に大きく、今後にも大規模な地震が起こらずとも大きな被害が生じることが予想されるため、耐震基準を見直すことになりました。
そこで、地震による建物の倒壊を防ぐだけではなく、建物内の人間の安全を確保することに着眼し、新耐震基準では“震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7に達する程度の大規模地震でも倒壊は免れる”ことを基準とし、大地震に対する対策を設けました。
しかし、過去の地震被害を見てみると少なからず新耐震の建物でも被害が生じています。このような新耐震でも壊れるマンションの特徴を見て行きましょう。
新耐震でも壊れるマンションの特徴
ピロティ構造には注意
1995年阪神淡路大震災で、被害が大きかった灘区と東灘区の震度7と判定された区域に限定して鉄筋コンクリート(RC) 造建物の総数3,911棟について被害度を日本建築学会近畿支部で調査しています。
この結果を見ると、新耐震、旧耐震いずれにせよ建物高さが5階あるいは6 階を超えると、大破あるいは倒壊の割合が大きくなっています。
特に1971 年以前に建設された8階建て以上の建物は全て倒壊しているので中古マンションの購入は止めた方が良いです。
旧耐震と比較すれば新耐震は、低層から中高層までの建物に対して、ほぼ一様に耐震性を向上させていることがわかりますが、やはり7 階を超える建物の2割以上に補修を必要とする被害が生じています。
・新耐震でも7階建て以上は補修が必要になる可能性あり
・旧耐震は8階建て以上だと倒壊の恐れあり
次表は、調査地域の全建物と「ピロティ構造」の棟数を建物階数別に比較し、ピロティ構造で大破・倒壊した棟数です。
3~6 階建てピロティ構造の2 割が大破・倒壊し、7 階建て以上では約半数が大破・倒壊しています。
ピロティ構造の被害を年代別に見ると、旧耐震の42~44% が大破・倒壊しており、新耐震では11% に減少しています。
・新耐震でもピロティ構造は1割が大破・倒壊
・旧耐震で7階建て以上では、約半数が大破・倒壊
実際、2016年の熊本地震でも新耐震でピロティ構造の被害が多数確認されています。
その他の新耐震建物の被害は以下をご覧ください。
「非構造壁(雑壁)」の損傷によって住めなくなる
また、新耐震の建物でやっかいなのが「非構造壁(雑壁)」の損傷です。
非構造壁(雑壁)というのは、柱や梁で囲まれた耐震壁でない壁のことです。
東日本大震災のときに、東京のマンションでも、同様の被害がありました。基本的に柱と梁に損傷がなければ、非構造壁(雑壁)が損傷しても復旧することで住み続けられます。
ただし、上写真のように被害が広がった場合は建替えざる得ない場合もあります。
さらに、この非構造壁(雑壁)が原因で柱は梁が損傷してしまうケースがあります。
一般的には、この損傷を避けるために、柱と壁、梁と壁を切り離して衝撃を逃すために「構造スリット」が設けられています。
この構造スリットは、1995年阪神淡路大震災以降、本格的に普及し、超高層など一部を除くほとんどの新築分譲マンションで採用されています。
裏を返せば、1995年前まではこのような構造スリットは設けておらず、地震被害が拡大する可能性があります。
また、梁と壁の接合部に構造用スリットが施工されていないことや、構造用スリットは施工されていたが、設計図通りの位置に配置されていなかった等の不適切な施工又は設計図位置から外れて施工しまっていたという施工不良が多く確認されています。
また、下写真のように中層マンションの多くが「板状」と呼ばれる構成になっています。そして中層マンションの被害と言えば、雑壁が大きく損傷している場合がほとんどです。
この損傷度合によって建て替えるor補修するのかになりますが、この損傷度合を事前に予測することは難しい現状があります。
そこで最近は雑壁を鉄筋コンクリートではなくALC(軽量気泡コンクリート)にすることで「完全に力を負担しない壁」にしてしまいます。
そうすれば柱と梁だけのラーメン構造となり、評価が簡便になりますし、仮にALCの壁が壊れたとしても、ただの外装材ですので補修が簡単です。
・構造スリットは1995年阪神淡路大震災以降のマンションで採用
・構造スリットの不適切な施工が確認されている
・「非構造壁(雑壁)」は損傷は予測できない、かつ損傷度合によっては建て替えになる可能性あり
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