旧耐震のマンションを買う。古い建物に気を付けるポイント。

旧耐震マンション

過去の地震被害を見ても、大きな被害を受けるのは旧耐震のマンションです。地震によって損傷が生じた場合、マンションには特有の復旧の難しさがあります。

しかしながら、旧耐震のマンションの中にもある一定数は地震被害から免れています。

どんな旧耐震のマンションが被害を免れているかを確認し、もし被災した場合のマンション特有の復旧の難しさを確認しましょう。

旧耐震のマンションを買う。古い建物に気を付けるポイント。

中層の壁式構造(WRC)やプレキャストコンクリート工法(PC)の建物は、壁量が多いため、旧耐震基準のものでも一般に耐震性は高く、過去の大地震でも大きな被害を受けたものは僅かしかありません。

ただし、無理な増改築等をしている場合は、その影響で被害を受ける場合があるので注意してください。

4階建ての壁式構造による共同住宅

左写真は,兵庫県南部地震で被害が集中した地域に建つ、4階建ての壁式構造による共同住宅ですが、構造的被害はありませんでした。

なぜ、地震被害が少ないかというと、5階までの中層マンションが多く、かつ区画面積に対して地震に抵抗する耐震壁が多く入っているからです。

ラーメン構造と壁式構造の違い
All About「マンション物件選びのポイント/マンションの構造・耐震性」より

ただし、旧耐震のマンションの多くは設計図書が紛失しているため、不動産会社が用意する間取り図から読み解くのは難しいです。そこは専門家に耐震性能のアドバイスを受ける方が良いです。

2016年の熊本地震でも、やはり圧倒的に被害は小さかったようです。しかし、水道や排水といったライフラインの損傷、家具などの転倒や、什器の散乱などで、避難生活を2か月近くしなければならない状態だったとのこと。

熊本地震壁式中層共同住宅被害調査
熊本地震壁式中層共同住宅被害調査(SSブログ)

また、一定規模の補修が必要となる「中破」程度の被害で納まったとしても、マンション敷地内にある水道や電気といったライフラインが、地盤沈下などの原因で損壊し、復旧工事をしなければ利用できない場合もあります。

被災マンションの課題

過去の被災マンション数

2017年7月31日東京カンテイ「熊本地震マンション被災度調査報告」によると、市内の約3棟に1棟の割合(32.0%)で「小破」以上の被害がありました。

熊本市被災数

被災判定で大破、倒壊はおそらく解体されており、中破でも解体されているものもあると予想されます。

他の震災被害を見てみると。

東日本大震災

東日本大震災(2011年)の分譲マンション全1,460棟のうち、倒壊0棟、大破1棟、中破15棟となっています。

海溝型地震だと熊本地震に比べて中破が1/3程度になっています。

阪神・淡路大震災

阪神・淡路大震災(1995年)の分譲マンション全5,261棟のうち、倒壊0棟、大破83棟、中破108棟となっています。

熊本地震と同じ直下型地震ですが、被災率は熊本地震の方が上回っています。

被災マンションの法律

被災マンションをめぐる法律は主に区分所有法、被災マンション法、民法があります。

マンションの被災程度は法律上「全部滅失」「大規模滅失」「小規模滅失」と構造に影響がないひび割れやタイルのはく離程度の軽微な「損傷」に分けられます。

全部滅失

建物がなくなる以外に、修繕しても復旧不可能な状態

大規模滅失

建物の価格の半分を超える滅失の状態

小規模滅失

建物の価格の半分以下の滅失の状態

全部滅失と大規模滅失の間の判断は建物の状態が主となることから一級建築士や弁護士で行います。

一方で大規模滅失と小規模滅失の判断は価格の評価が必要で不動産鑑定士が行います。

被災マンションの建て替え

中破以上の被害があると、復旧するのか、建て替えるのかの判断が必要になります。

地震で重大な被害を受けたマンションは、所有者の8割以上の同意により解体が可能です(被災マンション法)。なお罹災証明書で「半壊」以上と認定されれば公費解体ができます。

熊本地震では、公費解体を申請した被災マンションは18棟(中破も含む)でした。そのうち半数近くが所有者の合意形成が難航するなどしました。現在では残り一棟になっています(2020年4月現時点)

解体の合意ができても、熊本市は建物に残った家財道具の処分などに関する同意書の提出を求めていました。そのためマンション側の住民には、私物を放置したままで解体に非協力的な人や、行方不明で税金未納の人に対応して訴訟などを行っていました。

このような中、全壊の後に建て替えにまでこぎつけたマンションが1棟あります。

上熊本ハイツ(1980年分譲 5棟100戸、区分所有者数98名)

上熊本ハイツは、熊本市内で全壊判定を受けたマンションのうち、いち早く建替決議が成立したマンションです。

2016年4月 熊本地震発生 5棟の団地全体が全壊と判定される。

2017年9月 建て替えを決議。

2020年夏 1棟184戸(販売予定111戸)で竣工予定

それでも、地震で全壊してから再び入居するまで4年以上掛かっています。また販売戸数111戸もできるケースもまれだと思います。

Aマンション

2016年4月 熊本地震発生 建築士の調査により復旧困難と判定

2016年5月 地震保険の査定。市の罹災被害調査。復旧か建て直しかで意見が分かれる。

2016年6月 学識経験者による調査で復旧可能と判定。

2017年11月 取り壊しを決議(民法上の全員の合意のもと自費解体)。

このケースでは、専門家の意見の違いにより紛糾しました。

復旧及び取り壊しなどには、多くの専門家が必要となること、さらには罹災証明上の全壊や半壊の判定と考え方が異なり、一般に理解しにくいこと、見た目だけで判断できないことなどが問題となっています。

まとめ

このように被災マンションの復旧の難しさをまとめると、

①マンション住民の把握(追跡)が難しく、さまざまな個々の事情がある

②専門家による意見の違い

が大きな問題としてあります。住民、専門家、その他の方々の言うことがマチマチのため、それを1つの合意としてまとめていくことが大変難しいです。

最後に分かりやすくまとめられた被災後のマンションが復旧・復興するまでの道のりの手順をフロー形式で説明しているリンク先をご紹介します。ご参考下さい。

次回は、よくご質問を頂く「マンションは何階が安全」を実際の地震被害から考えるとともに、構造以外の被害を確認します。

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