旧耐震マンションを買うリスクを考える(パート1)。

旧耐震マンション

都内で中古マンションを探されている方も多いのではないでしょうか。

都心部で住むのであれば、賃貸より購入した方が毎月の支出は減らせる(将来のライフサイクルコストは増えるかもしれない?)ということがあります。

現在、私自身も中古マンションを都心部で探しおり、「いかに毎月の支払いを軽減するか」を重視しています。

このような中、専門家がどのように物件を探しているのかを書き残すことで参考になるのではないかと思っています。

ちなみに、私の希望は以下で探していました。

  • 新耐震基準かつ50㎡以上(住宅ローンを使いたい)
  • 5階以上(虫の心配がいらない)
  • 品川区、港区、中央区、江東区などの湾岸沿い
  • 予算3000万(リフォームなくても住めるぐらい)

旧耐震マンションを買うリスクを考える(パート1)。

結論。これで探そうと思うとほぼありませんでした!

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当たり前ですが、新耐震で湾岸沿いであるとしたら4000万スタートという感じです。

また、都心部だと無理やり2部屋+DKという間取りで40㎡というものも多くあります。

そこで「新耐震」と「延面積」はまずあきらめて旧耐震で探すと、結構ありました。

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こう見ると都心部って1970年~1980年の築40年以上のマンションが沢山あることが分かります。しかも地方と比べると値段があり得ないぐらい高い!

また、当時は鉄筋コンクリート造(RC造)の高層建物は少なく、だいたい鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)が多いのが分かりました。

このような旧耐震マンションを買う場合のリスクとして次の2つがまず挙げられます。

  • ①地震で倒壊・損壊した場合に生命の危険が生じる
  • ②地震後、住めなくなり住宅ローンの残債のみが残る

専門家としては、①は建物形状や構造などから、最低限の人命の安全性を確保できているかどうかの推測はできますが、②については、どの程度の損傷になるかの予想は難しく、ここをいかにリスク回避するかが課題となります。

地震は明日起きるかもしれないし、数百年起きないかもしれない。でも不安を抱えたまま生活するのは嫌だし、でもお金が沢山あるわけではない。

さらに設備や配管の老朽化もあるし、そのような中古マンションを買うリスクを考えていきましょう。

旧耐震マンションはこう壊れる。(耐震規準の見直しの経緯から考える)

旧耐震基準と言っても、~1971年と~1981年では大きく基準が異なります。

一度目の旧耐震基準の見直しは、1968年に発生した「十勝沖地震(M=7.9)」です。

県立三沢商業高校
写真:青森県「青森県大震災の記録」より
昭和42年12月増築完成したばかりの鉄筋コンクリート3階建ても支柱が折れて1階がつぶれ校舎は二つに折れたかたちとなった(県立三沢商業高校)

特に、鉄筋コンクリート短柱の顕著なせん断被害が多数生じました。せん断破壊した短柱では、帯筋は20cm間隔でした。

せん断破壊した短柱
写真:柴田明徳「平成24年度耐震工学研究会」より

1971年にはRC構造計算規準が改定され、また基準法施行令も改正されて、帯筋間隔は10cmとなりました。

都心の中古マンションでは、この1971年以前の建物が多くあります。このような被害になる可能性が高いため、専門家以外は購入は控えた方が良いでしょう。

この改正の前提では「震度5程度の地震に対して即座に建物が崩壊しないこと」とされていました。

熊本地震
写真:日本財託グループ「不動産投資の8つのリスク」より

ところが、1978年に発生した「宮城県沖地震(M7.4、震度5)」で甚大な建物の倒壊被害が発生しました(2016年熊本地震でもこの差が明らかに)。

ただし、十勝沖地震後に改正された基準で作られた宮城県泉高校の鉄筋コンクリート柱は、大きなせん断被害を生じましたが、倒壊には至ることはありませんでした(専門的には軸耐力を保持している状態)。

宮城県泉高校の鉄筋コンクリート柱
写真:SEINWEB「宮城県沖地震による泉高校の1階柱被害」より

このような柱は「被災度区分判定」では、「中破:大規模な補強・補修が必要な被害」になります。

豆知識:志賀マップ

東北大学の志賀敏男先生は、十勝沖地震の後で低層鉄筋コンクリート建物の被害を詳しく分析し、壁・柱量と被害の密接な関係を表す志賀マップを作りました。この志賀マップは10年後の宮城県沖地震の被害に対しても非常によく適合しています。

志賀マップ
写真:柴田明徳「平成24年度耐震工学研究会」より

宮城県沖地震では、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC造)の倒壊被害はありませんでした。

ただし、特に11階程度のマンションでは、建物の変形に壁やドアなどが追従できず、非耐力壁のひび割れやドアが開閉できないなどが見られています。

宮城県沖地震による建物の被害状況
写真:西松建設「宮城県沖地震による建物の被害状況」より

そして、宮城県沖地震の2年後、1981年6月1日に基準法が改正され、十勝沖地震以後に蓄積された研究成果を踏まえた新耐震設計法(新耐震)が定められました。

新耐震では、比較的よく起きる中程度の地震では軽度なひび割れ程度、まれに起きる震度6~7程度の地震では崩壊・倒壊しない耐震性を求めています。

この新耐震基準で建てられた建物は、1995年の阪神・淡路大震災でも大きな被害が少なかったことが分かっています。

新耐震基準は1981年6月以降に申請を受理したものです。

例えば、物件情報に「完成時期(築年数)」が記載されていますが、例えば1981年5月に申請して、完成時期が1982年5月となる場合は、旧耐震となります。

この境目のマンションが多いのは、いわゆる駆け込み需要によるものだと思います。耐震基準が厳しくなるため、コストアップを嫌い、できるだけ改正前に申請しておくという建築業界の悪習のひとつです。

次に1995年阪神淡路大震災での、これら旧耐震と新耐震のマンション被害状況を確認してみましょう。

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