多数の死者・行方不明者が出ている記録的大雨が毎年のように起こっています。
近年、九州豪雨や西日本豪雨など7月に大雨が降り「日本は梅雨末期が大きなリスクとなる時代を迎えている」と専門家が指摘しています。
このような中、ハザードマップの重要性が挙げられていますが、河川の氾濫で浸水が想定される「洪水浸水想定区域」の区域外で被害が多発していることはあまり知られていません。
今回は、過去の「洪水浸水想定区域」の区域外が発生した事例をもとに、防災対策を考えます。
洪水ハザードマップだけでは浸水被害を避けれない?過去の事例から考える。
静岡大の牛山素行教授(災害情報学)らは、2004~2017年に国内の風水害で死亡・行方不明になった819人のうち、川の増水や洪水による死者・不明者で被災した場所が詳しくわかった116人について、国土交通省や都道府県の定めた洪水浸水想定区域との位置関係を調べました。
その結果、2004~2017年の14年間の水害による死者・行方不明者の約7割が、自治体のハザードマップなどで示す「洪水浸水想定区域」の外で被災していたことが分かっています。
2017年九州豪雨
記録的な大雨により、福岡県、大分県の両県では、死者37名、行方不明者4名の人的被害の他、多くの家屋の全半壊や床上浸水など、甚大な被害が発生しました。
この九州豪雨で、死者・行方不明者41人のうち、洪水による被災者のほぼ全員が河川の氾濫で浸水が想定される「洪水浸水想定区域」の区域外で被害に遭ったとみられることが調査で分かっています。
被害は福岡県朝倉市の赤谷川や佐田川など中小河川の流域に集中していますが、しかし死者・行方不明者が34人に上った同市で、被害が出た河川のうち「洪水ハザードマップ」を作成していたのは佐田川だけでした。
2019年台風19号
台風19号の影響で河川氾濫や土砂災害などが相次ぎ、九州地方から東北地方にかけての広い範囲で少なくとも死者66名、行方不明者13名、重軽傷者398名の人的被害が発生しました。
台風19号で氾濫した川の水が押し寄せた足利市寺岡町の道路が、市が作製したハザードマップの浸水想定区域に指定されていませんでした。
市は2013年度、洪水時の各地区の浸水予測などを示したハザードマップを公表しましたが、寺岡町をはじめ今回被災した東部地区の多くが浸水想定区域から外れていました。
現行のハザードマップは渡良瀬川の氾濫を想定した国土交通省の浸水予測を示した内容で、今回氾濫した旗川など他の河川については対応していなかったといいます。
洪水ハザードマップの課題から考える
浸水想定区域はおもに1、2級河川など、一定規模の河川の周りでは国や県が設定していますが、九州豪雨や、台風19号による災害が発生したような中小河川は数が多く、ハザードマップの策定が進んでいないのが実情です。
全国に多数ある中小河川全てに洪水浸水想定区域を設けることは、技術的に難しい側面があります。
一方、静岡大の牛山教授は、地形の大まかな特徴をもとに国交省が公開している「地形分類図」上の分類で、被災した場所を同様に調べると、洪水の可能性が比較的高い「低地」での被害が85%を占め、「台地」は8%、「山地」が7%でした。
また、地理院地図でも「土地の成り立ち」から判断できます。
https://maps.gsi.go.jp/#15/36.104665/140.086348/&base=std&ls=std%7Cexperimental_landformclassification1&disp=11&lcd=experimental_landformclassification1&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f0&d=m
例えば、被害が目立った被災地の多くは、山間部の河川沿いで河川が運ぶ土砂が堆積した「谷底平野」にあります。
地形分類図も補助的に使って危険性を検討することも大事です。
その他にも大雨で河川の水位が上がれば洪水が発生しやすく、河川に架かる橋の高さよりも低い土地は浸水への警戒が必要になります。
梅雨時期の豪雨リスクが全国に
梅雨の豪雨というのは大気が不安定になる夜中過ぎてから起こることが多いです。そのため起きている間に避難をするという状態を考えておく必要があります。
また、これまで梅雨末期の豪雨というのは、西日本を中心に起きてきましたが、温暖化による影響で九州だけではなく、東海地方など、東日本で顕著に増加しています。
このまま温暖化が進んでいけば、東海地方や日本海側にも及んでいくと考えられています。
より頻度が高く、より強く、それから総雨量としてもより多くのものが、温暖化の影響でこれから全国に対して増えていく予測があります。