【最新地震被害想定】冬の深夜、日本・千島海溝地震

地震被害

内閣府は、想定すべき地震や津波の規模が明らかになってきたとして日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定を公表しました。

日本海溝・千島海溝沿いで、マグニチュード9クラスの最大規模の地震が起きた場合に、北海道厚岸町付近で最大震度7のほか、北海道から岩手県の沿岸部などで震度6強の揺れが予想されています。

また、津波の高さは、三陸沿岸では、岩手県宮古市で最大およそ30メートルとし、また岩手県中部より北の沿岸では、東日本大震災よりも高い津波が予想されています。その津波による死者数は最悪の場合およそ19万9000人にのぼるとしています。

日本・千島海溝地震
日本経済新聞/岩手など津波30メートル弱想定 日本・千島海溝地震

被害想定の公表に至った理由

日本海溝では、東北地方太平洋沖地震がすでに発生していますが、岩手県北部から北の領域については、ひずみエネルギーが蓄積されていると考えられているほか、千島海溝については数百年おきにM9クラスの連動型巨大地震が発生しています。

津波堆積物の調査結果では、1600~1700年頃にはこれらの領域が一度にずれ動くような巨大地震が起き、東日本大震災のような高い津波が押し寄せたと考えられています。過去およそ6500年分の調査の結果、巨大地震は300~400年の間隔で発生したと考えられており、前回が江戸時代初期の17世紀であったと考えられることから発生が切迫している可能性が高いとされています。

被害想定では、地震規模は千島海溝が大きくなっていまが、日本海溝のほうが北海道から東北にかけての人口の多い都市部で津波の高さが10m程度高くなるため、日本海溝のほうが大きくなっています。

初の被害想定は冬の深夜

今回の被害想定では、震源域を日本海溝沿いと千島海溝沿いの2つに分けて、それぞれについて地震の発生時期と時間帯を、「冬の深夜」「冬の夕方」「夏の昼」の3つの条件で被害の推計を行なっています。

「冬の深夜」では、就寝中で積雪や凍結の影響で避難が遅れるため、津波による死者数が最も多くなり、およそ19万9000人、全壊する家屋は最大22万棟と推計されています。

過去、同じような状況は、死者・行方不明3000人以上が出た昭和三陸地震(1933年3月3日午前2時30分)です。当時はなぜか「冬の深夜」に津波は来ない、という言い伝えがあり、それを信じた人たちが逃げ遅れました。

さらに津波から逃げたあと、屋外で低体温症によって死亡するリスクがあります。日本海溝沿いで「冬の深夜」の地震被害ケースでは、最大およそ4万2000人が低体温症要対処者になるとしています。

発表された資料から、津波による浸水深が60cmを超えると急激に死者が増え、冬場に被災した場合はそれによる負傷や低体温症により70cm以上の浸水深があると生存はほぼ絶望的であるということなどが分かります。それほど「冬の深夜」での被害は悲観的にならざる得ない状況になります。

しかし、東日本大震災の経験も踏まえ、住民がひとりひとりが、自分のこととして冷静に受け止めて、素早く安全な場所に避難するなど、防災対策をしっかりと行えば津波による死者数は、およそ8割減らせるとしています。今後は地方自治体を中心に、個別にどのような防災対策が必要であるかの検討が進むものと期待されます。

沿岸部に未知の巨大地震

約1000年前の平安~鎌倉時代に、房総半島(現在の千葉県)を巨大地震と大津波が生じていたことを産業技術総合研究所(産総研)の研究チームが今年9月に発表しています。前述した地震や、南海トラフ地震など、これらの巨大地震の発生確率は「同じ場所で同じような地震がほぼ定期的に繰り返す」という仮定で成り立っています。

しかし、例えば東日本大震災では政府が公式な見解として、巨大地震の危険性を発表する前に地震が発生してしまいました。東北地方太平洋沖地震では、歴史書に記録が残る869年に発生した貞観(じょうがん)地震の震源域との関係が分からないままでしたが、その後の研究によって非常に大きな津波が宮城県から福島県にかけて発生していたことが「津波堆積物」から明らかになりました。

ちなみに古文書などの記録から1677年の「延宝房総沖地震」や1703年の「元禄地震」の2つのマグニチュード8クラスの巨大地震が知られていますが、これより古い時代の巨大地震や津波は明らかになっていませんでした。

産業技術総合研究所
2021/09/03千葉県の太平洋岸で歴史記録にない津波の痕跡を発見/産総研研究成果記事

「津波堆積物」は、その名の通り、過去に生じた津波によって地層に堆積した土のことですが、これを放射性炭素年代測定した結果、未知の津波の痕跡が千葉県の九十九里浜で見つかっています。つまり、未知の津波の痕跡とは、過去に該当する地震の歴史がないことになります。この地震・津波の発生時期は平安~鎌倉時代にあたる800~1300年で、地震の規模を表すマグニチュードは8.5程度と推定されています。

もちろん、基本的に大きな津波、地震は繰り返し発生していますが、その関係性は複雑で、単純な繰り返しではなく、多様であるということです。そのため予測がされていない地域でも巨大地震は起こる可能性があります。災害は忘れた頃にやってくるという言葉があるように防災意識を高めていくことが大切です。

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