直下率と耐震等級3のチェックは必須!?

木造住宅

2016年熊本地震では、益城町にある2000年基準の木造17棟(7棟が倒壊、10棟が全壊)が被害を受け、「直下率」という指標に注目が集まりました。

工学院大学の宮澤健二名誉教授によると、益城町に建つ木造11棟を調べた結果、被災度が大きいほど耐力壁の直下率、壁量充足率とも低くなっており、直下率が0.6以上、壁量充足率が1.5以上だと被害が軽微に収まっているとのこと。

それでは、この直下率と壁量充足率について考えてみましょう。

直下率と耐震等級3のチェックは必須!?

2階の柱が1階の柱と同じ位置にある割合を「柱の直下率」、2階の耐力壁が1階の耐力壁と同じ位置にある割合を「壁の直下率」と言います。

「直下率」が高いということは、上下階で柱や壁の位置が揃っているということです。2階に柱や壁があって、1階になければ通常大きな梁によって荷重を受けて支えることになります。

専門的には、壁の直下率は、様々な捉え方があり、「耐力壁直下率」、外壁や非耐力壁を含めた間仕切り壁の「壁直下率」、2階壁から一定距離にある「準直下壁」などがあります。

なぜ、専門家の中でもこの「直下率」に注目が集まったかというと、それは「構造計画の良し悪し」の指標の一つになると考えられているからです。

過去に、職業能力開発総合大学校の松留愼一郎名誉教授が、旧・住宅保証機構の保証制度を利用した住宅のうち、2階の床の不陸事故で保証金が支払われた事例の直下率を調べた結果、柱の直下率が50%を切ると急激に事故の割合が増えることが分かっています。

直下率
図:、職業能力開発総合大学校松留愼一郎名誉教授資料より

この直下率が低い場合にそれが直ちに重大な建物被害に結びつくとは限りませんが、直下率が影響しやすい場合と、影響しにくい場合のあることが分かっています。

直下率が低くなり被害が生じた建物の多くは、下屋をつくる、オーバーハングさせる、吹き抜けなどいくつかあり、特に2方向セットバックの住宅は熊本地震でも全壊しました(解析シュミレーションでも倒壊)。

ウォールスタットで作成した住宅が壊れる様子
資料:中川貴文「ウォールスタットで作成した住宅が壊れる様子」

このような住宅の多くは水平構面の剛性が小さい、2や3次梁、耐力壁の引抜現象など、そもそもの構造計画がしっかりされていない建物が多いです。

木造住宅の問題

300m2未満の木造2階建てなどの条件を満たした建物(4号建物)については、建築士が設計・工事監理をした場合、建築確認の構造関係規定の審査を省略する制度として「4号特例」があります。

この「4号特例」は、建築確認を申請する際の申請書類を簡略化することで、手続きを迅速化や、建物品質も保つという合理的な考えで定められたものです。

故に4号建物であっても構造的な安全性を確認する義務はあります。その安全性を確認する方法として、建築基準法施行令に「仕様規定」が定められています

この仕様規定では、簡易な方法で安全を確認する方法として、壁量計算、四分割法などがあります。この方法で壁や筋交いをある一定量以上設け、かつ釣り合いよく配置することが厳格化されています(建設省告示第1352号)。

しかし、この簡易な方法で安全性を確認する建築士の多くは、「壁量が足りていれば構造は十分だ」と考える人がいます。実際は耐力壁の釣り合いが悪く、耐震性が不十分な建物が多くあります。

例えば、壁の配置バランスを検討する4分割法では外周壁に一定量の壁を設ければ、1階の内部に壁がなくても基準を満たせます。壁量が不足したり、バランスが悪かったりすると耐震性能が低くなるのはもちろん、強風で家が揺れやすくもなります。

大地震後も住み続けられる住宅にするには

そもそも構造計画は、地震などで加わった力がどこを通って地面に到達するか、という力の流れを考えることです。その力の流れに応じて、あるべき位置に柱と壁を入れることが大切になります。

大地震を受けても住み続けられるようにするには、耐力壁の量を増やすことです。現行の建築関連法規で明示されているもので、耐力壁の量が最も多くなるのは、住宅性能表示制度の耐震等級3です。

しかし、熊本地震の被害から、単に等級3にすればよいというものではないことが分かりました。下屋をつくる、オーバーハングさせる、吹き抜け、2方向セットバックで構造計画に問題があるものは等級3でも大きな被害を受けます。

壁量をしっかり増やしながら、構造計画では「単純明快」なものを心がけるべきだし、例えば、平面・立面上のくびれがなく、壁と水平構面が全体として一様に動くようなつくりがよいことはあたり前です。

震度7に襲われても住み続けられる住宅にするために、等級3にして気つける点としては、以下の2つが考えられます。

①筋交いより面材

筋かいは粘り強さを示す終局耐力が合板より低くなります。さらに地震力を受けると面外に曲がりやすい特徴があります。特にダブル筋交いは粘りがなく、熊本地震でも倒壊した建物で折れるなどの被害が確認されています。さらに節での折れも目立っていました。

写真:日経新聞「「2000年基準」も3~4割大被害、筋かい破断など多発検証・熊本地震住宅倒壊(中)」より

②等級3を上回る壁量を確保

東京都市大学教授大橋先生は、震度階では震度7が上限なので、あらゆる震度7に耐えることは難しいとしつつも、震度7の下の方であれば、2回来ても、耐震等級3を上回る1.75倍程度にすることを述べています(耐震性が1.5倍なら必要壁量1.86倍なので、必要壁量が等級1に比べて2.17倍です)。

壁量を増やすために、それほどコストアップにならない方法の一つは、構造用合板や石こうボードを留め付けるクギやネジのピッチを通常の半分に狭めることです。特に石こうボードは約1.8倍の強度アップが見込め、さらに石こうボードより普通硬質石こうボード(GB-R-H)を使うことで耐力がさらに上がります。

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