2016年4月に起きた熊本地震は、同じ場所で震度7が2回起きた観測史上初めての地震です。
熊本県益城町では14日夜の前震で震度7を観測、16日午前1時25分にマグニチュード(M)7.3の本震で、同県益城町と西原村で震度7を観測しました。
2回続けてこのような大きな地震を受けた場合、新耐震基準をギリギリクリアできる程度の耐震性能だと大きな被害が発生する可能性があります。
それでは実際の被害と私たちができる対策を考えてみましょう。
木造住宅は耐震等級3がギリギリ最低ライン。熊本地震は同じ場所で震度7が2回。
熊本地震では、前震(4/14)で持ちこたえた建物が、本震(4/16)で倒壊してしまった建物が多くありました。
この震度7の観測は1995年以降では1995年阪神大震災、2004年新潟県中越地震、2011年東日本大震災と過去67年間で3回しか記録されていません。
さらに熊本地震は、3日間で震度7を2回、震度6(強・弱)を5回記録しています。
日本建築学会の調査によると、激震地に立つ耐震等級3の住宅16棟のうち14棟が無被害、残る2棟は一部損壊など軽微な被害になっています。
一方、建築基準法の耐震基準(2000年基準)に適合した耐震等級1は、倒壊した住宅が7棟、全壊したものが12棟ありました。
ちなみに耐震等級1で規定している耐震性とは、稀に発生する地震(数十年に一度程度、震度5強程度)に対して損傷を生じない程度、極めて稀に発生する地震(数百年に一度程度の頻度を想定、震度6強から7程度)に対して倒壊、崩壊しないとされています。
建基法の耐震基準は「大地震が発生した際、建物が損壊しても人命は守る」ことを目標にしているにもかかわらず、倒壊した住宅が7棟ありました。さらに耐震等級1だけでなく耐震等級2の木造住宅でさえ、倒壊が起こっています。
2006年の木造住宅実験でも耐震基準内でも倒壊?
耐震等級1及び2の木造住宅については、2006年に国交、経済産業両省の外郭団体である木質構造建築物の振動試験研究会(委員長=坂本功・慶応大教授)で振動実験が行われており、阪神大震災(震度7)クラスの地震で倒壊する危険性があることが指摘されていました。
実験では、阪神大震災の地震波(818ガル)を再現して木造2階建て3棟(耐震等級1~3)を振動台の上で揺らしました。
結果、耐震等級1の建物を揺らしたところ、1階の柱や筋交いが折れ、実質的に倒壊しました。耐震等級2(基準の1.25倍の耐震性)では壁板が浮いたり、柱のかすがいが抜けかかったりしましたが倒壊はせず、耐震等級3(1.5倍の耐震性)は変形したものの、構造部分はほぼ無傷でした。
耐震等級3がギリギリの最低ライン
これらは木造の研究者にとっては当然の結果でした。新聞は倒壊を衝撃的に報じていましたが、木造研究者にとっては、激震地でも住み続けられる木造住宅は、耐震等級3がギリギリの最低ラインという認識です。
耐震等級3にすることでコストアップとなると思われるかもしれませんが、それほど心配することはありません。
昨今は、高倍率の耐力面材を手ごろな価格で入手できます。それらをうまく活用すれば、耐震等級1とさほど変わらない工事費で耐震等級3を実現できます(ただし、筋交い⇒面材はコストUP)。
しかし、この耐震性には「間取り」が、つまり壁の量、床の有無などの部屋の繋がりが大きく影響します。
大手住宅メーカーでも、耐震性能の高い「試験棟」の映像を大きく宣伝していますが、間取り事情もあり「耐震等級3が標準仕様」と記載していないので確認する必要があります。
想定外の地震が来るリスクに備えるためには、最低ラインとしての耐震等級3、強いて言えば、構造計画を考えること、現行の耐震基準を守ること、構造的、耐震的に余裕のある設計をすることが重要になります。