2016年4月に起きた熊本地震は、同じ場所で震度7が2回起きた観測史上初めての地震でした。
木造住宅で、2回続けてこのような大きな地震を受けた場合、新耐震基準をギリギリクリアできる程度の耐震性能だと大きな被害が発生する可能性があります。
今回は都心部に多く見られる1階にガレージの付いた木造3階建て住宅について確認しましょう。
木造3階建て住宅は耐震等級3でも危ない?過去の振動実験から考える。
長期優良住宅の構造安全性向上を目的に、2010年10月27日に行われた実大震動台実験で、長期優良住宅で義務付けられた耐震等級2相当の試験体が倒壊しました(映像:奥の建物)。
2つの建物の大きな違いは、倒壊した方は性能表示の耐震等級2と同等の設計、倒壊しなかった方(手前)は耐力壁こそ耐震等級2を満たしていますが、軸組接合部は弱い設計となっていました。つまり、その違いは柱頭柱脚の金物の性能差だけです。
この性能の差は、1988年当時に発行された構造計算マニュアルに従ってギリギリの設計をした場合と、現行法の設計法を比較するためです。当時のマニュアルに従った建物は現在も適法です。
なお、耐力壁は両方とも、建基法耐震基準の1.46倍に相当する壁量を配置し、長期優良住宅の耐震基準は同1.25倍なので、それを優に上回る耐震等級3近くの倍率がありました。
実験を行った関係者によれば「奥の建物の倒壊は想定していなかったが、軸組接合部より先に耐力壁が破壊されたのは想定通り」で、「倒壊しなかった建物も、実際は実験開始後10秒で柱脚部が破壊されて引き抜きが起こり、柱脚は土台から外れた後も鉄骨の架台の上に乗っていたために倒壊しなかっただけで、実際の住宅であれば基礎の高さの分だけ柱脚部が落下するので倒壊に至るだろう」と話しています。
しかし、長期優良住宅を手がけている住宅会社にとって耐震等級2の住宅が倒壊したという事実が衝撃的であったことは間違いありません。
倒壊しても基準法の想定範囲?
一般社団法人 木を活かす建築推進協議会「3階建て木造軸組構法の設計法検証事業の報告」の結論として
①建基法で規定している「大規模の地震」を想定した波による加振を行った結果、層間変形は100分の1ラジアン程度と長期優良住宅で規定している40分の1ラジアンを大きく下回り、耐震性能に関する長期優良住宅の認定基準を十分に満たしている。
②試験体1の1階は270kNの最大耐力を示しており、これはベースシア係数で約1.0に相当する。建基法の1.8倍の地震動に対しては倒壊したが、建基法で要求する耐震性能の146%で設計された建物が保持すべき所定の耐力は十分に保有していた。
一般社団法人 木を活かす建築推進協議会「3階建て木造軸組構法の設計法検証事業の報告」
つまり、そもそも地震波が大きすぎた(基準法の1.8倍)ので、基準法で想定している地震なら大きな変形(弾性変形内)もないし、構造耐力も十分あったと考えられるということです。
このことは、阪神淡路大震災で、ツーバイフォー工法や適切な構造計算がされた3階建て住宅については、無被害か軽微な損傷程度であったとの報告と概ね一致しています。
また、ツーバイフォー工法による実大振動実験も2006年に行われており、実際の建物は、等級1でも阪神淡路級の地震にも耐えるはずと結論づけています(五十田博教授)。
耐震等級3がやっぱりギリギリの最低ライン
しかしながら、都心部にあるビルトインガレージ付き3階建て木造住宅は、熊本地震のような震度7が2回起きた地震を経験したことはありません。
同じく、熊本地震でも多く見られた接合金物がきちんと取り付けられていない場合や大きな地震に遭遇すれば、接合金物の締め付け力が弱まるかもしれません。
このことからも、激震地でも住み続けられる木造住宅とするには、耐震等級3がギリギリの最低ラインではないでしょうか。
お客さんの中には大きな窓を設置することにこだわる人もいます。そうなると壁量を確保しにくくなり、耐震等級3をクリアできないケースも出てきます。そのような場合は、本当に大きな窓が必要か否か、考えてもらう必要もあります。
耐震等級3にすることでコストアップとなると思われるかもしれませんが、それほど心配することはありません。昨今は、高倍率の耐力面材を手ごろな価格で入手できます。それらをうまく活用すれば、耐震等級3以上を実現できます。
想定外の地震が来るリスクに備えるためには、最低ラインとしての耐震等級3、強いて言えば、構造計画を考えること、現行の耐震基準を守ること、構造的、耐震的に余裕のある設計をすることが重要になります。