全館空調は良いの?電気代は安いの?

住まいの環境

各部屋に壁掛けエアコンを設置してそれぞれを操作する「個別エアコン」が一般的です。

しかし、次表に示すように、壁掛けエアコンには長所と短所があり、基本的には在室時のみ冷房する「居室間欠運転」専用の機種になります。

長所

短所

・安価で交換が容易

・間仕切られた部屋に設置が可能

・部屋ごとのON・OFFで室温・風量調整が容易

・「畳数」目安で選べば、暖冷房能力は十分(ただし、過大)

・前部屋につけるとコストがかさむ

・部屋ごとに室内機・室外機の設置スペースが必要

・気流や温度差などの不快感を感じやすい

・在宅時のみONのため、低効率

 

このようなこともあり、「全館空調」をキャッチコピーとして、導入コストメリットやランニングコストメリットをうたっていますが、本当にそうなのか考えてみましょう。

全館空調は良いの?電気代は安いの?

全館空調(換気システム併用型)の弱点

全館空調
図:某住宅メーカー

全館空調の最大の弱点は、メンテナンス性が非常に悪いことです。特にダクト内のカビやほこりによって健康被害の原因をつくってしまうことがあります。

一番ほこりがたまりやすいのが外部から空気を取り入れる換気用ダクト(OA)がある場合です。このほとんどが外部からの砂ほこりです。

次がエアコンへのリターンダクトで、洋服やカーペットなどの繊維くずがたまりやすくなっています。

さらに、カビは全館空調特有の現象で、ほこりの堆積と結露が重なると発生します。カビが生える要因には、ダクトやチャンバーの材質、気温度に対してエアコンの設定温度が低すぎる場合、間欠運転です。どれも湿気や結露を引き起こす原因となります。

このように価格は高い割に、メンテナンスも必要となるため、エアコン1、2台で全室の冷暖房を手ごろな設備費と光熱費でまかなう「全館空調」を提案する住宅会社が続々と登場しています。

小屋裏天井エアコン

安価な「全館空調」の定番は、1台もしくは2台の壁掛けエアコンを用いるエアコン数台で全部屋を一定の温度にできるシステムのことです。

エアコン1台で「全館24時間冷房」とする高性能住宅に取り組む事業者が増えてきています。

ただし、重たい冷気は下に流れるため、1台のエアコンで全館冷房するには、なるべく上方の天井裏ロフトなどに設置して冷気を床面に吹き下ろすことになります。

間仕切りが少ない住宅には有効ですが、間仕切られた個室には冷気が届きにくいです。また、窓際は暑く冷えにくいので、日射遮蔽を行う必要があります。

これらを解決するためには「ダクト式全館冷房(CAV)」として、各部屋に冷気をしっかり届けることができます。

小屋裏天井エアコン
資料:前真之より

ただし、壁掛けエアコンでは、空気を押し込むのに必要な「静圧」をつくる力が弱く、またフィルターが目詰まりすると風量が急減します。本来、壁掛けエアコンは、全館24時間冷房を想定したつくりにはなっていません。

その他にも、階中に設置して、ファンで送風する冷暖房型、1階床下から上部に温かい空気を吹き出す暖房型などがあります。

安価な「全館空調」の定番

近年、安価な「全館空調」の定番として、2台の壁掛けエアコンで全部屋を一定の温度にできるシステムを手掛ける住宅会社が多くなりました。

家の小屋裏や床下などにエアコンを設置し、そこで集中的に空気を冷やす・暖めます。そして、その空気をダクト経由で、各部屋に供給していきます。

図:松尾設計室「小屋裏冷房と床下エアコン暖房

ただし、難しいのが適切なエアコン能力の選定と運転方法です。家の特性や地域などで一長一短があるため、ノウハウのある工務店さんに聞くのがベターです。

また、床下エアコン暖房は最低でもQ値1.9以下(UA値なら0.57以下)、C値1.0以下くらいの断熱性・気密性が必要ですし、暖房運転の方法まできちんと指導しないとうまくいかないことから、失敗した工務店がたくさんあります。

さらに、床下エアコンを採用する場合、床下の温度が下がると相対湿度は一気に高まり、直接冷気が当たる部分で結露することがあります。床下の冷房には特に注意が必要です。

小屋裏エアコンで冷房する場合は、冷房・除湿計画が大切になります。また、各部屋が個室に分かれており、各部屋ドアを閉めることが大半です。この状況で冷房をムラなく効かせるには設計上の工夫の積み重ねが必要になります。

全館空調のノウハウのある住宅会社は一部

このように壁掛けエアコンでする「全館空調」は性能が高く、性能の割りにかなり安いのが特徴です。

空調の最先端の研究でも、暖房は床下暖房、冷房は屋根裏エアコンへ進んでいます。暖かい空気は上にいき、冷たい空気は下にいく原理を使った理にかなった方法です。

しかし、ノウハウも必要で設置すればそれでよいとはなりません。例えば、床下暖房は二階まで十分に暖まらない課題があったり、床下の気密性が悪いと暖気が床下で広がらなかったり、屋根裏エアコンは逆結露のリスクと導入費用の高さの課題があったりします。

これらの対策をしっかりすれば、床下エアコン暖房を1台だけ採用した場合、仮に1階床温度を24℃にすると、1階室温が22℃、2階は20℃くらいになります。

また、小屋裏エアコン冷房すると、1ヶ月つけっぱなしにしても月の冷房費は4000~5000円ぐらいです。しかも、室内環境は春や秋のように暑さも涼しさも感じにくい「無感」に近い状態となり、ダニ・カビともほとんど無縁の生活となります。

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