これまでは地震ハザードマップの見方を解説してきましたが、しかし専門家でない人が地震ハザードマップを見てもなかなか「どんな対策が必要なのか分からない」といったことがあります。
そこで、ここからは以下の2つを目的とします。
「専門家はどう考えているのか」、「実際にどんな被害になったのか」を確認する。
その考えを知りつつ、私たちにはどのような対策が必要を考える。
これらを考えることで、地震ハザードマップから、周辺の災害リスクを事前に把握して住まいを選ぶ、もしくは建物にきちんと対策が施されているか確認できる、ない場合はそれに合わせた対策ができることを目指します。
地震の周期は何年?
東京大学地震研究所の瀬野教授によれば、
関東大震災は1923年、その前は元禄関東地震が1703年、さらにさかのぼると明応関東地震は1495年、永仁関東地震が1293年、このように約200年の周期で地震が発生している。
関東地震の再来周期は短くて220年、すると次の関東大震災は2130年前後ということになる。ただしプレート内地震は70〜80年周期とされており、マグニチュード7クラスの地震はいつ起こってもおかしくない。(東京大学地震研究所瀬野ホームページより抜粋)
ここでのプレート内地震とは、活断層で引き起こされる地震です。身近なところでは、1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)(マグニチュード7.2)もプレート内で発生した地震です。
内陸の都市の直下で地震が発生した場合、マグニチュード6~7程度でも、阪神・淡路大震災のように震央付近の被害はいちじるしく、多くの犠牲者が出る可能性が高いです。
ただし、かつて東京大学地震研究所では、「関東大震災69年周期説」という説が唱えられていたことがあります。
現在ではこの説は誤りだったということですが、このように地震が起こるたびに新しい見解が生まれるなど、地震予測には難しさがあります。
建物の被害の状況を知ろう(兵庫県南部地震)
内陸の都市直下で地震が発生した場合の被害を予測するため、1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)の被害状況を見ましょう。
建物に被害の多くは昭和56年6月以前(1981年)に建てられた木造住宅でしたが、木造以外の住宅でも被害が出ています。
グラフから、どの構造でも昭和56年以前の建物は半壊・倒壊した割合が高いです。特に被害が集中しているのが、昭和56年以前の木造住宅です。
鉄骨造や軽量鉄骨造でも、昭和56年以前のものは比較的高い数値を示しています。反対に、木質系プレハブや鉄筋コンクリート造では、被害が少なかったことがわかります。
この昭和56年(1981年)を境目として国の耐震基準が大きく変わっています。1981年6月以前を旧耐震基準といい、それ以降を新耐震基準と呼んでいます。
新耐震基準と旧耐震基準の大きな違いは、耐震基準の震度の大きさです。
旧耐震基準では“震度5強程度の揺れでも建物が倒壊せず、破損したとしても補修することで生活が可能”と規定されており、中地震に耐えられるように基準を設けていました。
しかし、その後の地震被害で見直しされ、建物内の人の安全を確保するため、新耐震基準では、
“中規模の地震(震度5強程度)に対しては、ほとんど損傷を生じず、極めて稀にしか発生しない大規模の地震(震度6強から震度7程度)に対しては、人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害を生じないことを目標”
を基準とし、大地震に対する対策が設けられました。
1981年以降2000年以前に建てられた木造戸建て住宅は注意が必要
旧耐震基準の建物は、どの構造も被害が大きくなる傾向があることが分かりましたが、新耐震基準の建物でも、特に1981年以降2000年以前に建てられた木造戸建て住宅は注意が必要です。
2000年の建基法の耐震基準(以下2000年基準とする)に関連する告示では、以下の3つが定められました。木造戸建て住宅に大きく関わるのは以下の3つです。
①地耐力に応じた基礎の構造形式の規定(建設省告示1347号)
②壁の配置バランスの規定(同1352号)
③使用する金物を具体的に指定した木造の継ぎ手および仕口の構造方法(同1460号)
中でも、壁の配置バランスと金物の指定が明確化されたことで、耐震基準がより厳格化されました。2000年より前は、金物や壁のバランスに対する意識があまりありませんでした。
日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(木耐協)によると、2000年基準以前の新耐震住宅のうち65%が、接合部の施工がくぎ打ち程度の状態で耐力が低く、現行の基準を満たしていない建物や、壁の配置バランスでは、南面に大開口を設け北側に耐力壁をまとめて配置するなど、偏った建物が少なくなかったとのことです。
これらから震度6強または震度7の地震が発生した場合、2000年基準以前の新耐震の住宅は損傷・倒壊する可能性が相当高くなります。
兵庫県南部地震を上回る熊本地震による被害
新耐震基準の住宅は、人命に危害を及ぼすような倒壊等は生じないだろうと考えられてきました。
ところが2016年4月に発生した熊本地震では、新耐震基準の建物の多くが被害を受け、倒壊した住宅の割合は阪神・淡路大震災(1995年)を上回りました。
熊本地震の被害がどれくらいすごかったかを示すために、阪神・淡路大震災と比較しました。
「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書より筆者作成
耐震基準 (木造住宅) | 阪神・淡路大震災 (神戸市中央区) | 熊本地震 (熊本県益城町) |
旧耐震 | 408棟のうち 倒壊が77棟(18.9%) | 702棟のうち 倒壊が225棟(32.1%) |
新耐震 | 13棟のうち 1棟が倒壊(8%) | 800棟のうち(※) 73棟(9.1%)が倒壊 |
※2000年5月までに建築されたもの
※新耐震基準もしく2000年基準で建てられているが、倒壊した木造住宅99棟を分析した中間報告も公開されています(ここでは触れないですが、接合部の仕様規定がない、2000年基準を満たす柱頭柱脚金物の建物も、別な要因で倒壊したケースがあります。)
また、その他の構造として、鉄骨造で新耐震基準による143棟のうち、大破・倒壊が17棟(11.9%)あります。しかも大破した11棟中3棟は、2000年以降に建てられたものです。
鉄筋コンクリート造は新耐震基準の20棟の中に大破・倒壊はありませんでした。
観測史上初の震度7の地震が連続2回(熊本地震)
熊本地震(前震・本震)は,観測史上初めて短期間に同一の地域で震度7の地震が2回発生した大地震です。
これまでに震度7 の激震は兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)で初めて観測され、その後は新潟県中越地震(2004年)、東北地方太平洋沖地震(2011年東日本大震災)と過去67年間で3回しか記録されていません。
熊本地震は、3日間で震度7を2回、震度6(強・弱)を5回記録しています。熊本地震では、前震(4/14)で持ちこたえた建物が、本震(4/16)で倒壊してしまった建物が多くありました。
2回続けてこのような大きな地震動を受けた場合、新耐震基準をギリギリクリアできる程度の耐震性能だと大きな被害が発生する可能性があります。
ここまで専門家の考え方や実際の被害を見てきました。次に私たちには、どのような対策が必要かを考えましょう。