首都直下地震、タワーマンションのリスク

地震ハザードマップ

2022年5月に東京都が首都直下地震の被害想定を10年振りに見直しました。30年以内に70%の確率で起きるM7.3の首都直下地震(都心南部、冬の午後6時、風速8m/s)が起きた場合の最も被害が大きい場合の想定を10年前と比較してみました(10年前と地震動は異なる)。

日経新聞:首都直下地震、最大死者6100人 都が10年ぶり被害想定

震源域や地震動が異なるため、単純な比較が難しいですが、傾向としてはいづれの項目も減少していることが分かると思います。その理由としては、地震対策を着実に進められてきたことです。例えば東京都の耐震化率は2012年3月末で81.2%だったのに対して、2020年3月末には92%まで増えています。建物の耐震化や火災に対する不燃化を取り組み、ハードの整備が進んだこと、一人一人の防災意識が高くなっていることが挙げられます。

見直しの中で新しいものとして、時間が経つにつれて状況がどのように変わっていくのかを時系列に示した「災害シナリオ」が示されたことです。災害後に電気ガス水道通信などのインフラやライフラインがどのように変わっていくのかを時系列ごとに具体的に示されています。

被害想定は、具体的な被害をイメージし、その対策を講じることを目的としていますが、一人一人が身の回りにどんなことが起きるのかを想像して、それに対して備えることが大切なことです。

都心では食料や水の備蓄をしている防災意識の高い方もいらっしゃいますが、従来の3日分の備蓄では対応できない可能性が高く、大規模災害の場合には物資の流通が回復しない可能性が高いため、最低でも一週間分(大人2日)以上を準備する必要があります。

新たな課題、タワーマンションのリスク

都内では、10年で高さ45m超のタワーマンションなどの高層建物が1000棟以上増加しており、特にタワマンに住む高齢者問題が新たな課題として挙げられています。被害想定でも、地震の際に停止するエレベーターの台数は2万2000台超と想定しており、前回想定の3倍になることが予想されています。また地震が夏場に発生した場合、空調が停止して長時間閉じ込められる可能性もあり、体調悪化などのリスクがあると指摘されています。

エレベーターが止まった場合には、部屋に戻ることも困難になり、逆に部屋から出られなくなる可能性も高くなります。また地震発生時にエレベーターに乗っていれば長時間閉じ込められる可能性もあります。2018年6月の大阪北部地震(最大震度6弱)では、約6万3千台のエレベーターが停止、大阪府を中心に346件の閉じ込めが発生、その救出時間は最長5時間20分かかっています。

また、M8〜9の発生確率が40年以内に90%程度と予測されている南海トラフ地震の想定では、閉じ込めが2万人以上になると予想されています。つまり非常に長い時間救助まで閉じ込められる可能性があります。また助けを求めているかどうかもわからない可能性もあります。

多くのエレベーターには地震感知機が揺れを検知したら、近くの階に止まる仕組み(地震時管制運転装置)が導入されており(2009年以降設置義務あり)、全国約77万2千台のエレベーターの内、約59万台に設置されています。つまり1/4程度は古いまま対策されていない現状もあります。

いづれにせよ、いきなり強い揺れに見舞われればエレベーターのかごが衝突したり、人命に関わるような事態になることは避けられないので、とにかくシステムがあろうがなかろうが、緊急地震速報が自分の携帯に届いたらすぐに行き先階のボタンを全て押しましょう。

大規模商業施設やオフィスなどでは、エレベーター内に防災キャビネットを設置しているものもありますが、長時間閉じ込められることも考慮して、水や携帯トイレなどは持ち歩くこと、なるべく階段を使うこと、いざという時に備えておくことが大切です。

残念ながら、私たちは厳しい経験をしないと対策をしない傾向があるため、できるだけ事前に想像して、少しても対策をしておきましょう。

新たな課題、タワーマンションの火災リスク

2022年6月に44階建タワーマンション(品川区東五反田)の18階で火災が発生しました。この家事で消防車30台が消火活動にあたり、マンションの住民約400人が避難しました。火元がはしご車の届かない18階だったため、屋内消火栓で室内から消火活動が行われました。

ANN NEWSより
ANN NEWSより

マンションの住民は非常階段で降りて避難した方も多くいましたが、上階の方は火元を避けるために避難しなかった方も多くいたようです。

基本的には避難できる人は全員地上まで避難するというのが原則で、タワーマンションは建築基準法でも消防法でも規制が厳しくなっており、避難階段は基本的には安全な構造となっています。今回は燃え広がることはありませんでしたが、出火元の18階から避難を開始し、その上の19階、そして20階以上の階、最後に火元より下の階の住民の避難行動を行い、一方で高齢者や避難が困難な場合は、出火元から遠い部屋に待機することも考えられます。この場合は、煙が中に入ってこないように開口部を締めることがまずやらなければならないことになります。

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