洪水で亡くなった方の多くは、土砂や濁流に飲み込まれて流されたと想像するかもしれませんが、実際には自宅の室内で溺れて亡くなる方が圧倒的多数です。
例えば、2018年7月に発生した西日本豪雨では、岡山県倉敷市真備地区で亡くなった51人うち43人が自宅の1階で溺死したとみられています。
さらに、その 9割近くが65歳以上の高齢者でした。また就寝後の未明に洪水が発生したため、逃げ遅れた高齢者が多かったのではないかと考えられています。
しかし、なぜ住宅の2階に避難できなかったのか、を明らかにするため、水理学の専門家が再現した実験があります。
洪水で避難が難しい理由
岡山県倉敷市真備地区では、低地で浸水が発生し、浸水の深さが3メートルを超える場所が大半にみられました。浸水の深さが3メートルでは、1階部分がほぼ水没する状況です。
さらに、浸水の深さが3メートルに達するまで1時間、これは2015年の茨城県鬼怒川で堤防の決壊で浸水したスピードの6倍以上の水位の上昇速度が記録されています。
この浸水被害の状況を確認するため、東京理科大学二瓶教授は、被災住宅の1階の間取りを再現し、洪水発生時の水深などを基に室内の状況を観察しました。
実験の結果、洪水発生時から1分30秒で水深が6cmに達して畳が浮上、約20分で家具が転倒して散乱して、足の踏み場もない状態になりました。この状況で、2階への避難は難しくなります。
また室内より屋外の水位が高いため、その水圧差で玄関ドアが開かず、屋外に避難できないことも明らかになりました。
以前のブログでも、洪水の程度(浸水深と流速)と避難との関係を整理した図を紹介しています。
このように高齢者では床上浸水が30cm程度でもドアを開くことができません。さらに、畳が浮いたり家具が倒れたりして歩行が困難な状況で、電気のついていない夜中に起こった場合には避難は相当困難になります。
お住まいの地域の水害リスクがあるのかを事前にハザードマップで確認し、「どこに逃げるべきか」を避難ルートも含めて考える必要があります。また、やむをえない場合の2階へ逃げるなどの垂直避難にも備えて準備しておくことが重要になります。
首都圏でも最大5mの浸水
首都圏でも、5メートルを超えるような浸水深の場所や、洪水による浸水継続時間が2週間以上という地域の存在がハザードマップに示されています。
首都圏では、マンション等で高いところに避難することは比較的容易ですが、洪水が起こったときには、場所によっては2週間以上浸水が継続して、取り残されてしまう状況が考えられます。また、取り残された場合には、人口密度が多いため救助に時間がかかる状態になると予想されています。
そういう意味で、大雨のときには、まずは早めの安全な場所への水平避難を心掛けるべきです。垂直避難の場合は、浸水が継続した場合の備えとしては、水や食料、簡易トイレを多めにストックすることや、カセットコンロなど調理器具の用意などが大事になります。