水害から命を守る。国内外の様々な水害対策。

浸水被害

気候変動による海面上昇、頻発する異常気象など、私たちの住まいは様々なリスクに直面しています。

特に地球温暖化が年々進行していくに連れて、自然災害の発生頻度も増加傾向にあり、特に高潮、洪水、豪雨などから命を守るための水害対策や、さらには災害後にも生活を持続させることができる住まいづくりやまちづくりも求められています。

水害から住まいを守るための新しい治水の方法について、国内外のケースを確認しましょう。

水害から命を守る。国内外の様々な水害対策。

日本の水害対策(霞堤)

日本列島は海に囲まれており、すべて囲むような防潮堤建設は不可能です。もちろん、高潮で東京首都圏や臨海工業地帯等の甚大な被害が発生する場所については、対策を講じる必要があります。

ただし、防潮堤の整備をするためには、多大な時間とコストが発生します。

このような中、2019年の台風19号で堤防決壊が相次いだ那珂川(栃木、茨城)と久慈川(茨城)の洪水対策として、国土交通省関東地方整備局は1月31日、三つの柱からなる対策の組み合わせで、被害の最小化を目指すと発表しました。

その対策の一つが、伝統的な治水方法「霞堤(かすみてい)」を活用することです。

「霞堤」は、堤防をあえて途切れさせることで、増水した川の水を近くの遊水池などへ逃がし、下流の流量を減らす方法です。霞堤の原型は、戦国時代に武田信玄が考案したとされています。

霞堤の仕組み
図:国土技術政策総合研究所「霞堤の仕組み」

洪水後に水位の低下すれば増水した水も引き、また農地としての利用が可能となります。

ただし、「霞堤」も万全な対策とは言えません。

2019年の台風19号による千曲川の増水で市役所新庁舎一帯が冠水した理由について、市長は想定を超える水位上昇で、堤防が部分的に切れた状態の霞堤部分から水が流入した可能性が高いとの見解を示しています。

また、国交省北陸地方整備局(新潟市)も同日の取材に「千曲川の増水により堤防から越水する場所が相当数あり、霞堤の設計を超える水が流れ、あふれた」としています。

千曲市の浸水
図:信濃毎日新聞「台風19号長野県内豪雨災害」

次に海外の水害対策を見てみましょう。

ドイツ ハンブルクの水害対策(ハーフィンシティ)

過去に発生した一番大きな洪水は、1976年の海面上6.45mの洪水でした。ハーフェンシティ地区の都市開発にあたり、この地区全体を高い堤防で囲むことも対策の一つでした。

しかし、初期投資が膨大になること、堤防建設が終わらないと新規の建物の建設が始められないこと、さらに「水辺に親しむ都心」という基本コンセプトに反することから、別の方法を選択しました。

その方法が、建物をかさ上げし、それぞれ個別に洪水防御壁を設けることで、洪水対策をするということでした。

ハーフェンシティ
図:京都大学五十嵐敏郎「ハンブルク市の挑戦 : ハーフェンシティ計画」

海抜7.5メートル以上が居住エリアで、それ以下のスペースは、市民の憩いの場所やオープンスペースになって、一つ一つのかさ上げされた建物がそれぞれの特性を生かし、水と共存したまちづくりがされていました。キーワードは、『水と共に生きる』です。

ハーフェンシティの浸水対策
写真:應義塾大学SFC大学院政策・メディア研究科池田教授 「江東区新木場地域を対象とした大都市臨海部の水辺環境を活用した都市再生手法の研究」より

右の写真は、2007年に発生した浸水状況で、水位は5.65mとなりましたが、1階の用途を制限して駐車場などの非居住機能としており、防水扉などで水の浸入を防ぐ措置がとられているのが分かります。

また、カフェなどの商業的機能も一部あり、その場合は、特殊な水密サッシや非常用の防水扉などの対策が施されています。

これらは市の定める基準に従い、浸水時の被害に対する保証はされない事への同意を条件に許可され、洪水対策設備の定期的検査が義務づけられているとのこと。

車道が水没してしまうエリアにおいても歩行者のネットワークは水位7.5m 以上の高さに位置し、浸水中でも避難のために全てのエリアを通行することが可能です。

HafenCity
写真:ハーヘンシティHP

右上の写真は水辺に浮かぶ桟橋で、黄色とシルバーの円筒の柱は固定されており、増水時には床のみが上下する仕組みになっています。

ニューヨークの水害対策(Big U)

海抜が低いニューヨーク市は、気候変動による海面上昇もあって、洪水の危機に直面しています。

2012年にニューヨーク市に上陸した台風では、通常の満潮時を最高で約3m上回る高潮が押し寄せました。

米国住宅都市開発省は、この大惨事を繰り返さないための「Rebuild by Design」というコンペを開催し、BIG(ビャルケ・インゲルス・グループ)社が提案した「Big U」が、次の巨大な嵐に備えるマンハッタンの強化策として3億3,500万ドルを獲得しプロジェクトがスタートしました。

BIG U
図:http://www.rebuildbydesign.org/

BIGの提案では、マンハッタン南端の金融街(ダウンタウン)の周りに巨大な堤防を建設し、マンハッタン島の半分ほどをU字型に囲ってしまうものです。

ただし、巨大な堤防と言っても、通常の堤防ではなく、住民のニーズにあった機能を持っています。

ただし、深刻な批判もあります。

ビッグUで守られるのはウォール街のみであり、高潮被害が特に深刻だったブルックリンやクイーンズなど、他の地域は守られません。

また、ビッグUは100年に1度発生する約80cmの洪水に備えて設計されるに過ぎず、長期的に見ればビッグUでは完全に街を守れません。

以上のようにコンクリートの堤防という従来のハードな浸水対策ではなく、ソフト要素も加味したハード対策が主流になってきています。

まちづくり全体としてのコンセプトを行政主導で行っていくような取り組みが日本でも広がれば、住まいのリスクを低減しつつ、豊かに暮らせるのではないかと思います。

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