2020年4月から改正意匠法が施行され、これまでは意匠登録の対象が「物品」の形状や色彩などに限定されていましたが、不動産の「建築物」のデザインや、壁や床などの装飾や家具配置などにより構成される「内装」のデザインも意匠登録の対象となりました。
海外の有名な意匠(商標)権としては、アップルストアの店舗デザインやレイアウトがあります(米国商標登録4,277,914号)。
日本の意匠では厳格な物品性という要件があり、物品に付けられた形状、模様、色彩であることが必要でした。そのため、店舗の内装、レイアウト、配置が商標できるとは日本では考えられないことでした。
つまり意匠法の保護対象は物品のデザインであり、その物品は量産可能な動産であることが条件でした。このため、デザイン性に優れたものであっても、土地に定着した不動産など、量産されない物品の意匠は登録を受けることができませんでした(実際は「組立家屋」)という物品名で意匠登録されています)。
この法改正によって、空間デザイン(建築物、内装)も意匠登録ができるようになったのは、大手コーヒーショップチェーン「コメダ珈琲店」が外観を模倣したとして「マサキ珈琲」を訴えた事件がきっかけで法改正に進んだと言われています。
この時は意匠法ではなく不正競争防止法によって保護を求めた案件でしたが、今後は意匠法を盾に権利を主張することができるようになるため、訴訟が増える可能性があります。
住宅デザインで訴えられる!?
法改正後、国内で初めて登録された建築物、内装の意匠はユニクロPARK 横浜ベイサイド店です。
その他にも、蔦屋書店、くら寿司など大手チェーンストアの意匠登録が行われています。
このような中、東京地方裁判所は2020年11月、住宅のデザインに関する「意匠権」の侵害を認め、類似した商品の販売差止めや、賠償金の支払いなどを命じる全国初の判決を下しました。
この訴訟を起こしたのは、「BESS」ブランドの木造住宅を展開するアールシーコア(東京都)で、訴えられたのはマキタホーム(鳥取市)です。
アールシーコア(BESS)は、正面の柱と梁(はり)で十字を構成するデザインで、この形状について2017年2月に「組立家屋」として部分意匠の意匠登録をしています。
マキタホームは、この意匠登録とほとんど同じデザインで、鳥取市内で住宅3棟を販売していました。
右の写真は訴訟中の2020年10月5日頃に問題となった住宅の柱の一部を除去して意匠権侵害に当たらないようデザインを改修した写真です。
マキタホームは意匠の類似性について、当初は「十字を形成する柱の形状や位置が異なるため、類似性はない」と主張していました。
しかし、東京地裁は判決で、「十字を構成する柱の位置などに差異はあるが、要部の共通点を凌駕するとはいえないとして、意匠権侵害を認めました。
ただし、アールシーコアは意匠法37条2項に定める差し止め請求権に基づき、マキタホームの住宅3棟の除去を請求していましたが、判決では不正競争防止法に基づく原告の請求は理由がないとして棄却しています。
この理由は、訴訟中に問題となった住宅の柱の一部を除去して意匠権侵害に当たらないようデザインを改修したからです。
注意しなければならないのは、このように部分意匠として登録した場合は、それを外してしまえば意匠権の侵害に当たらないことです。つまり、建物全体としてデザインを保護しなけば、意匠権侵害に当たらないようにする抜け道があるということです。
また、審査では、新規性と独自性(創作非容易性)が問われ、単に角を丸くしたり一部を削除したりするといった場合は、審査官が「軽微な改変」に当たると判断すれば、登録は認められません。
つまり、差別化のひとつとしてデザインを考えた場合、よっぽど特徴的な意匠でなければ権利の保護は難しいと考えられます。
それでもこのような判決を受け、住宅メーカーには従来以上に、保護された権利に対する深い理解が求められると思います。