春先から5月は大火の季節でもあります。明治以降、焼失500戸以上の大火災件数(戦争火災は除く)の多くは、空気が乾燥する12月から5月、特に風が強くなる3から5月は大火が多い傾向があります。
春は低気圧が発達しやすく、一年で最も風が強い季節で、火事の原因の多くは強風で、強い風に煽られて、火の粉だけでなく、火のついた物自体が飛び、火災を拡大します。複数の飛び火は、火災が扇型に広がる特徴を持っています。
戦後に起きた主な大火は、
- 1947年 長野・飯田大火
- 1947年 茨城・那珂湊大火
- 1950年 静岡・熱海大火
- 1952年 鳥取大火
- 1976年 山形・酒田大火
- 2016年 新潟・糸魚川市火災
ここでは鳥取大火と酒田大火の被害を確認してみます。
春の嵐。突風だけでなく火災にも気つけよう。
1952年の鳥取大火
鳥取大火は戦後最大の大火災で、当時大火を招く気象条件が揃っていたことが分かっています。
日本海で低気圧が発達し、大火当日の鳥取市の気象データによると最大風速約15メートル(南南西)、最大瞬間風速約23メートル(南南西)の強風が吹き、最小湿度28%でした。
風向きが南南西のため、風は瀬戸内山地を乗り越えて吹き降りてくるフェーン現象を伴う乾いた風になります。飛び火により自然の防火帯である川も越え、被害が拡大し、飛び火による出火は計16カ所におよんだといいます。
出火から13時間して消化し、鳥取市内は焼野原となりました。今年2021年、大火から70面にして、一面の焼け野原となった市街地のパノラマ写真など11点が県立公文書館で初公開されました。
鳥取大火の被害
焼失区域面積 111万8370平方メートル(東京ドーム24個相当)
被災建物 6786棟
被災者 2万451人(死亡者3人、負傷者3965名)
1976年の酒田大火
酒田市一番の繁華街で出火した火災は、風速25m(最大瞬間風速26.7メートル)を超す台風並みの暴風に煽られ、鎮火するまで、約12時間に渡って燃え続けました。
鳥取大火と同じく、低気圧が日本海上で発達し西よりの強風が吹き荒れていました。さらに断続的に雨が続いていた中での出火でしたが、強風のために走り火や飛び火が頻発して雨中の市街を東に急速に燃え広がりました。
酒田大火の被害
焼失区域面積 152,105平方メートル(東京ドーム3.5個相当)
被災建物 1,774棟
被災者 死亡者1人、負傷者1,003名
この火災では、アーケードのある通りと風向(火炎の向き)が一致して、火炎がアーケードの上を高速で走り、通り両側の燃えやすい家屋に先行着火することが確認されています(中町アーケード街)。
これらの火災は、ほぼ例外なく強い風が影響しており、火の取り扱いと気象状況に注意する必要があることが分かります。
一般の家庭で火事を起こした場合には、どんな罪になるのか?
2016年新潟・糸魚川市火災の火元となったラーメン店では、火事を起こした日、中華鍋をガスコンロの火にかけたまま、自宅に戻り、その間に火が壁などに燃えうつり、店を含む147棟に被害が及びました。
そして業務上失火罪の法定刑に問われて、禁錮3年、執行猶予5年(求刑禁錮3年)の判決が出されました。
執行猶予が付いたものの、業務上失火罪の法定刑(3年以下の禁錮又は150万円以下の罰金)の上限の過去に例のない重い求刑です。
理由として、失火の原因、過失の態様が極めて重大かつ悪質であったことと、失火による被害が、日本国内の単一出火の延焼による火災の規模としては過去20年間で最大であったという被害の大きさが影響したものと考えられています。
もし今回、ラーメン店ではなく、一般の家庭で火事を起こした場合には、どんな罪になるのか?
ラーメン店と同じく、一般の家庭でも、わずかな注意を払えば失火を防げたような重大な過失があれば、例えば、火元近くに灯油があり、火災を発生させたなど、重過失失火罪が成立する可能性があります。
ただし、過去の先例を見る限り、死傷者が出た場合を除き、禁錮の実刑判決が下ることは少なく、罰金か、執行猶予付きの禁錮刑が科せられるケースが多いようです。