マンションの杭の長さが足りない!25年後に傾く!

施工不良

2015年に、三井不動産レジデンシャルが販売した「パークシティLaLa横浜」で、翌年には住友不動産が販売した横浜市西区の「パークスクエア三ツ沢公園」でも、マンションを支える基礎杭の長さが足りていないことや、施工不良により全棟建て替えとなりました。

杭の長さが足りず、数十年後にマンションが傾くケースが多くあることはあまり知られていません。

このような数十年後にマンションが傾いたケースを確認し、住まいのリスクを考えてみましょう。

マンションの杭の長さが足りない!25年後に傾く!

ベルヴィ香椎六番館

ベルヴィ香椎六番館
写真:ホームズ「不動産アーカイブ」より

1995年の入居開始直後から外壁のひび割れや玄関扉の枠の歪みなどの不具合を訴え続けていた福岡市内に立つマンションがあります。

このマンションは、JR九州と若築建設、福岡商事(当時、福岡綜合開発)の共同企業体(JV)が販売したものです。

マンションの管理組合は不具合を訴え続けてきましたが、その都度、若築建設などは「設計図書通りに確実に施工している」などと説明していました。

この25年間の不具合を時系列でまとめると、

1995年

7月に分譲(間取り3~4LDK、価格2000万~3000万円)

1997年

・外壁のひび割れ、玄関ドアが開かないなどの不具合が続出

・そのうち5戸が玄関ドアの取替対応

1998年

建物の構造設計会社が不同沈下の調査測量を行い、2階で31㎜の高低差を確認

1999年

若築建設が調査測量を行い、高低差は1㎜で不同沈下はないと判断

2016年

・玄関ドアを交換した5戸のうち2戸のドアが再び開閉困難となる

・測量会社社員の住民が測量調査を行い、最大100mmの高低差を確認

・それに対し、販売会社は雨水排水のための勾配であると回答

2017年

・住民側は、自ら約200万円かけ、専門の業者によるボーリング調査を実施し、杭が支持層に達しないことが判明

・その結果を受け、販売会社側も杭の調査を実施

・販売会社側は、杭の調査では支持層まで届いているので傾斜の原因が杭と断定することは難しいと主張

2018年

・管理組合側は裁判所に調停を申請するが、裁判所は調停案を出さないまま不成立に終わる

2019年

・福岡市に相談したが、図書保存義務の期間が過ぎており資料がないため施工の不備は確認できないといて、管理組合と施工者で話し合うしかないと回答

2020年

・1月に、住民側はさらに500万円かけて日本建築検査研究所にボーリング調査を依頼

・結果、マンションの傾きが大きい付近の2本の基礎くいは、固い地盤(支持地盤)に達していないことが判明

・4月に「調査結果の報告について」という文書が住民に配布。

・5月に販売会社側のJR九州、若築建設、福岡商事の幹部が謝罪

このように販売会社は、責任逃れの発言(表赤字)をし続けていました。

謝罪するまで、地震などの外的要因が影響を及ぼした可能性が否定できないため、今後、傾斜の原因についての調査は行わないと回答しており、住民側の追及をかわし続けていました。

このマンションの調査を担った日本建築検査研究所の岩山代表は、「施工者は工事の段階で建物の傾きを把握していたのではないか」と指摘しています。

なぜなら、床やサッシの上枠・下枠などが傾いているにもかかわらず、サッシの縦枠はほぼ垂直で、キッチンのシンクは排水に支障を来たさないように水平に調整されていることや、住戸の大梁が27mmも傾斜しているにもかかわらず、柱はほぼ垂直に打設されていることを指摘しています。

以上より「建設後に不同沈下が起こったのであれば、柱も梁と同様に傾いていなければおかしい」とし、「売り主は基礎杭に欠陥があり、不同沈下があることを承知していながら、建物を販売していた」と結論づけています。

島根県県営住宅「渡津団地」

島根県県営住宅「渡津団地」
図:島根県「島根県営住宅渡津団地地盤沈下等調査委員会」より

島根県の県営住宅「渡津団地」は、1995年から96年にかけて整備されました。

この団地に立つ1棟の共同住宅が不同沈下して、調査委員会は2018年3月にまとめた報告書で、「構造的な機能に支障が出ている可能性があり、継続利用は困難」と判断しています。

沈下した原因として、杭の一部が支持基盤に到達しておらず、弱い地盤の沈下が影響して傾きが発生しました。

以下の図から分かるように、かなり複雑な地層になっており技術者も支持層に達しているかどうかの判断が難しいことが挙げられます。

図:島根県「島根県営住宅渡津団地地盤沈下等調査委員会」より

この沈下により、3号棟北側の壁面では200カ所以上のひび割れを確認しています。

200カ所以上のひび割れ
図:島根県「島根県営住宅渡津団地地盤沈下等調査委員会」より

不同沈下で住めなくなる目安は?

島根県の県営住宅「渡津団地」では、東西長手方向に1000分の6以上の傾斜が確認されています。

住宅品質確保促進法74条に基づく技術的基準では、同程度の勾配が建物に与える影響について、「構造耐力上、主要な部分に瑕疵が存在する可能性が高い」としています。

1000分の6以上の傾きがどれくらいの傾きかというと、3mの距離で2㎝の傾きがあるということになります。

住宅が傾くと、戸の開け閉めの不具合、隙間風の発生、傾斜によるものの転がりといった障害だけでなく、めまいや吐き気などの健康障害が生じることがあります。ただし、健康障害には個人差があることに注意してください。

図:日本建築学会「建築士のためのテキスト 小規模建築物を対象とした地盤・基礎」より

傾斜角

健康障害

5/1000 (=1/200)

傾斜を感じる。

6/1000 (=1/167)

不同沈下を意識する。

8/1000 (=1/125)

傾斜に対して強い意識、苦情の多発。

1/100程度

めまいや頭痛が生じて水平復元工事を行わざるを得ない。

ちなみに新築においては、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)においては、3/1,000未満という数値があります。

3/1,000や6/1,000は一つの基準ですが、この数値を超えるからと言ってすぐに建物全体が傾いているという判断にはなりません。

建物全体が傾いているかどうかは、下記の内容も確認して総合的に判断します。

1.壁も床も傾斜しているか。

2.規定値を超える傾斜が何か所かあるか。

3.開閉しづらい建具が箇所もあるか。

3.外壁や基礎に多くのひび割れがあるか。など

杭の未達によるマンションの傾きについては、今後も増えてくるように感じます。

やはり人が判断する過程で間違いが生じるし、複雑な地盤を判断する技術者のレベルの問題などがあります。

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