マンションの杭の長さが足りない!

施工不良

2015年に、三井不動産レジデンシャルが販売した「パークシティLaLa横浜」で、マンションを支える基礎杭の長さが足りず、マンションを支える固い地盤(支持層)に達していないことや、施工データの改ざんが発覚しました。

当時、ニュースでも大きく取り上げられて、販売会社の三井不動産が提案した「全棟建て替え」の補償内容は、前例がないほど手厚いものでした。

翌年、住友不動産が販売した横浜市西区の「パークスクエア三ツ沢公園」でも、杭が支持層に達していないことや、基礎の鉄筋が切断されていたことが発覚し、全棟建て替えとなりました。

このような補償ができるのも、資金力のある大手財閥系だからこそであり、その他の不動産デベロッパーでは、ここまでできないでしょう。

このような事態に巻き込まれた場合の住まいのリスクをこれらのケースから考えてみましょう。専門的な内容もありますが、ぜひご覧ください。

マンションの杭の長さが足りない!

パークシティLaLa横浜の場合

パークシティLaLa横浜
図:三井不動産「パークシティLaLa横浜パース」

この発端は「二つの棟をつなぐ手すりがずれている」という住民の指摘があったことです。

当初、三井不動産側は、東日本大震災の影響によるものとして、責任逃れをしていたとのこと(住民談)。

しかし、その後の調査で、建物を支える基礎となる杭473本のうち、8本が必要な深さまで打たれておらず、重複を除く70本の施工データが改ざんされていたことが判明しました。こうした改ざんは全4棟のマンションのうち3棟に及んでいました。

住民向け資料
資料:三井不動産レジデンシャル「2015年10月16日に配布した住民向け資料」

ちなみに横浜市建築局建築指導部は、建物の一部の柱や梁が耐力不足であり、震度5強程度の中規模の地震でひびが入る恐れがあるとし、構造耐力を規定する建築基準法20条と、基礎の構造などを規定する建築基準法施行令38条に違反しているとして、是正勧告を出しています。

ここで使われた杭については、大臣認定を取得していない杭工法に求められる載荷試験で、大きな負荷をかけた際に地中で破損したことも分かっています。

このような事実がある中、全棟建替えを提案したのは、瑕疵が全棟にあるとの認識があったとの見方もあります。

全棟建て替えは一見、消費者保護にかなった判断に思える。しかし、それは原因を特定し、再発防止策を打ってこそだろう。欠陥住宅問題に詳しい吉岡和弘弁護士も、「瑕疵の有無を訴訟で争う選択肢があったにもかかわらず、全棟建て替えを提案したのは、取り壊して建て替える必要のある瑕疵が全棟にあることを、三井不レジらがあらかじめ知っていたからだろう」と話す。

引用:日経アーキテクチャー「杭未達、明らかにすべき原因」より

パークスクエア三ツ沢公園の場合

パークスクエア三ツ沢公園
写真:パークスクエア三ツ沢公園管理組合

このマンションでも分譲後しばらくして、B南棟とB東棟とをつなぐ渡り廊下の手すりが10cm程度ずれていたことなどを住民が指摘しています。

当初は施工会社の熊谷組が補修するなど応急処置をしていましたが、マンションの傾きが止まらず、2013年に管理組合が住友不動産に対して正式に対応を要求しました。

しかし、住友不動産側は傾きの原因は不明として責任を認めず、管理組合で修繕するように回答しています。

住民サイドの再三の要求で2014年に本格的な調査が行われ、4棟で強固な地盤に杭が届いていない施工ミスがあることが判明しました。

それでも住友は傾いた1棟のみ建て替えで、他の棟については補修工事で対応するという方針で住民サイドと交渉を続けていました。

ちなみに、うち2棟で構造上の危険性があるため、横浜市から是正勧告を受けています。

そして不安に駆られた住民が、マンションの地下で配管などを収める「ピット」と呼ばれるスペース内を確認したところ、コンクリートのひび割れを発見。

その後の調査で、コンクリート内の鉄筋の不適切な切断が約46カ所見つかっています。さすがに自らの非を認めざるをえなくなり、住民側に全棟建て替えを提案しました

熊谷組は施工不良が発生した原因について、こう説明しています。

設計段階ではスリーブの着工直前まで設計図の詳細に関して検討を続け、設計変更が生じていた。そのため、施工計画段階では配管や配線の施工図について検討する時間と人員が不足。施工段階では関係者の認識不足から、スリーブ設置後の検査が不十分だった。

引用:日経アーキテクチャー「横浜の杭未達マンションの施工不良の原因を熊谷組が報告」より

全国の杭打ち工事会社で杭打ちデータの改ざん

前出のパークシティLaLa横浜における杭打ち偽装を受けて、国交省は旭化成と元請け会社に対し、旭化成建材が杭打ちを担当した全物件の施工データを調べ直すように要求し、全国で大規模な調査が行われました。

その結果、2016年2月に「全3052物件中360件の施工データに流用があった」という衝撃的な調査結果が国土交通省から公表されました。

さらに2016年末には、杭打ち工事会社の業界団体が、旭化成建材のケースの他に「16社が担当した238件の建物で杭打ちデータの改ざんがあった」とひっそりと公表しています。

これらについては概ね安全性が確認されているとのことですが、再発防止対策等について専門的見地から検討することを目的として、国交省は学識経験者からなる「基礎ぐい工事問題に関する対策委員会」を設置し、「中間とりまとめ報告」をしています。

この「中間とりまとめ報告書」では、多重下請け構造の業界問題などを指摘しています。

建築物の施工は、一品受注生産、下請を含めた多数の者による総合組立生産等の特徴があります。元請は建築物全体の安全性に施工上の責任を負っていますが、現場で直接施工する会社は、専門化、零細化し、重層構造の下層にいます。元請は全体の工程管理や書類整理に追われ、現場に足を向ける機会が減っています。

このような環境下、元請と下請がどのように責任を担い安全な建築物を施工するのか曖昧になっていないでしょうか。

次回は、古いマンションで築数十年後に、杭の未達により傾いたケースを確認し、住まいのリスクを考えてみましょう。

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