静岡県熱海市で2021年7月3日に発生した大規模な土石流のメカニズムが徐々に明らかになってきました。静岡県によると盛り土の崩壊について、下流側が起点となって順に起こったと推測しています。
また、静岡県熱海土木事務所が実施した現地調査では、「盛り土の表流水が地下に浸透して崩壊地に流れ込んだ可能性がみられる」と判断している。
さらに、流域を越えて流入した地下浸透水が地下水位を上げ、土砂災害を引き起こしたのではないかということで、県は今後、ボーリングなどを実施して水の流れなどを詳細に調査する方針です。
ちなみに、静岡県の難波副知事は、名古屋大学の修士論文で「傾斜地における安全性」をテーマにしていたということなので、この問題については豊富な知識があると思います。
会見では「盛り土の排水が不適切で、水がたまりすぎた」「排水管や土砂の流下を防ぐ堰堤を設置する必要があった」と指摘しています。
ハザードマップの確認は必須
静岡県が公開するハザードマップでも、災害が発生した伊豆山地区は、土石流発生の危険性が高い「土石流危険区域」の範囲とほぼ重なっています。同地区は土砂災害の発生しやすい土砂災害警戒区域にも指定されていました。
熱海土砂災害と同じような災害危険地域は、全国に危険地域が18万箇所もあると言われています。毎年のように土砂災害が数千件発生しており、死者が100人を超えることもあります。
一方で、無秩序に宅地開発は行われ、このような危険地域に住んでいるということ自体知らない、知っていたとしてもどうしょうもできない方も多くいます。
住宅を購入する時に、重要事項説明が契約前に行われているとはいえ、検討を始める段階から情報を把握していなければ、契約のリスクを事前に把握することはできません。
災害のハザードマップは下記サイトで広く公開されており、どなたでもご確認いただけます。
しかしながら、専門家として、このような危険地域に居住するということ自体を考え直す必要があると考えています。
過去数千年以上の災害の歴史を振り返れば、津波にあった場所、何度も洪水が起きている場所など、大きな災害がある場所はかなり特定できています。
自然災害伝承情報を見る
有史以来、全国の災害の教訓は各地域において記録としてあるもの、図画として残されているもの、あるいは物語、ことわざとして伝承されているものなどがあります。
わたしたちの先人は災害の様子や教訓を石碑やモニュメントに刻み、後世の私たちに遺してくれています。
この自然災害伝承碑に関する情報が、国土地理院のウェブ地図「地理院地図」に掲載されています。
しかしながら、平成30年7月豪雨で多くの犠牲者を出した地区では、100年以上前に起きた水害を伝える石碑があったものの、深く考えたことはなかったという住民の声が聞かれるなど、過去からの貴重なメッセージが十分に活かされてはいません。
危険地域には居住させない
過去に大きな災害があった場所には、家を建てさせないよう行政主導でするべきだと考えています。また専門家の意見を参考にし、危険地域に住んでいる人たちの移転を促すことも必要だと思います。
しかし、被災された方の多くは、また同じ場所に戻って生活を再建したいという方も多くいます。行政の課題としては、その場所をどのように確保するのか、新しい家をどのように建てて、どのように移転してもらうのかという明確な「指針」を示すことが必要です。
過去の大災害でも、同じ問題が生じており、行政が「指針」を示さないため、昔の場所に戻って住み続けた人もいれば、山の上に移り住んだ人、どこか別の地域に移り住んだ人もいて、バラバラの状況になっています。
災害危険地域を定義して「この場所には住んではいけない」と指針を示すのは、行政の指導力なしにはできません。このような明確な指針を示した上で、復興にお金を使うべきだと私は思います。