過去の震災において、地盤の液状化による被害は繰り返されてきています。
1964年に発生した新潟地震では建物の倒壊や沈下といった現象が発生。1995年の阪神・淡路大震災や2000年の鳥取県西部地震、2004年の新潟県中越地震、2016年の熊本地震、2018年の北海道地震などでも、液状化現象による被害が確認されています。
特に2011年の東北地方太平洋沖地震では、千葉県浦安市などを中心に大規模な被害が生じました。この地震によるマンションの液状化被害の特徴を説明します。また、戸建て住宅の液状化対策の費用軽減の方法も説明します。
マンションの液状化被害。浦安市の被害の特徴。
千葉県浦安市の大・中規模マンションは、その殆どが支持杭または摩擦杭で施工されていたので、建築物本体には大きな被害は発生していません。
ただし、液状化した地域で、建築物周囲の地盤沈下によりエントランス周りに段差が生じ建築物からの出入に危険が伴ったり、建物にとりつく部分でのライフライン被害や、液状化した周辺地盤でのライフラインや外構に大きな被害が出ました。
マンションの被害状況は、マンション学会において実施したアンケート調査結果が参考になります。
アンケートは35団地から回答があり、建物周辺地盤の沈下量としては0-80cm と立地等によってばらつきがあります。
沈下量が10cm未満であったもののうち概ね半数が3階建て程度の低層住宅であり、10cmから50cmの沈下量のものはほとんどが10 階建て程度の中高層住宅となっています。
被害状況を整理すると、何らかの地盤改良(その殆どが埋立層下部より深い12~15mまで施工)を行っている建物では、建築物周囲の段差が無いか小さく、M9.0 の地震動によって生じた1.5-2.0m/s2 程度の地震動に対して、地盤改良効果の有効性が確認されました。
なお、地盤改良施工範囲と未施工部分で段差が生じましたが、ライフライン等に大きな被害は軽減される傾向にあります。
他方、敷地および周辺の地盤における被害は決して小さくありません。液状化現象による土砂の噴出、道路の崩壊、マンホールの隆起、水道管の破裂による冠水( 跡) などが随所に発生しています。
戸建て住宅の液状化対策
前回は、戸建て住宅の液状化被害の状況を確認しました。
既に住宅が立っている宅地での対策は、工事費が高くなるため難しくなります。
東日本大震災で液状化被害が生じたエリアで、液状化対策を講じようとして断念した地区は少なくありません。
このことから建物を新築する場合において、液状化が起こる可能性、液状化による影響の大きさを事前にある程度把握することが望ましいと考えられます。
土地条件図や治水地形分類図などで地盤の良しあしを見極めることが大事です。
液状化に対する被害軽減対策の手順
東日本大震災によって約2万7000棟もの戸建て住宅が液状化によって甚大な被害を受けたことを重大な問題と捉え、社団法人地盤工学会では 「造成宅地の耐震対策に関する研究委員会報告書 ― 液状化から戸建て住宅を守るための手引き ― 」として被害軽減対策をまとめています。
その中で液状化に対する被害軽減対策の手順が記載されています。
これらの手順により液状化の可能性と対策を考えていきます。
液状化対策工法の種類
液状化対策工法には、建築物の基礎で対応する工法と地盤を改良して対応する工法とに分類することができます。
総2階建ての戸建て住宅(建築面積50~70平方メートル、延床面積100~140平方メートル)を想定して各種工法を紹介します。
小口径杭工法 | 鋼管杭を堅固な地盤まで回転貫入又は圧入する工法 工期:2~3日 工事費の目安:150~250万円程度 |
柱状改良工法 | 水で溶いたセメント系固化材を地中で撹拌し、柱状の改良体を作る工法 工期:2~3日 工事費の目安:100~200万円程度 |
表層改良工法 | 粉体のセメント系固化材を地盤の土と混合撹拌し、面的に地盤改良する工法 工期:1~2日 工事費の目安:80~150万円程度 |
埼玉県「建築物の液状化対策について」より表作成
対策コストを抑える
上記で述べた「液状化から戸建て住宅を守るための手引き」では、調査方法や対策方法について、液状化する可能性がある全ての層の対策ではなく、表層付近の重要性を解説しており、表層付近に液状化対策する層を設けることで対策コストを抑えることが挙げられています。
以前は、液状化する可能性のある層を全て改良していました。例えば液状化層が10mある場合、戸建て住宅は軽いので深さ3mくらいの改良でも、被害を一定範囲に留めることができ、表層部のみに対策することでコストを抑えることができます。
次回はこれまでの過去の液状化被害を一覧としてまとめてみたいと思います(随時更新)。