地震で液状化が起こるとどうなるのか。過去の被害から考えよう。

液状化被害

液状化で人が亡くなることはほぼありませんが、しかし住宅が傾くことで健康被害が生じたり、敷地や地区内のライフライン(ガス・上水道・下水道などの生活に必要な設備)に被害が生じたために、居住しつづけることができなくなる場合もあります。

そこで、どんな場所で液状化が起こりやすいのか自分で調べて、知っておくことをおすすめします。

2011年の東北地方太平洋沖地震では、関東近郊で液状化の被害が深刻になりました。この地震による液状化被害の特徴を説明します。

地震で液状化が起こるとどうなるのか。過去の被害から考えよう。

戸建住宅の傾斜

東京湾沿岸の浦安市から千葉市にかけての埋め立て地帯で、震度5強とそれほど大きな震度ではなかったにも関わらず、町全体が液状化しました。

最も被害が大きかったのが戸建住宅とライフラインでした。地盤改良を行っていなかった埋立地のほぼ全域で液状化現象が発生しています。

特に戸建住宅など直接基礎の小規模建築物では、約3,700棟の建築物が半壊以上(1/100以上の傾斜)の被害認定を受けました。

の建築物が半壊以上(1/100以上の傾斜)の被害認定
浦安市:液状化対策実現可能性技術検討委員会資料より

不同沈下で傾いた住宅

液状化による不同沈下は、極端に沈下量が異ならないため、建物に大きな損傷を生じない場合があります。

しかし、建具の不具合・すきま風・床を物が転がるなどの生活上の障害や、頭痛・めまい・不眠などの健康上の問題が生じることがあります。 

液状化対策が施された地盤に支持されている建物や、杭で支えられている建物は、液状化が起こっても沈下しません。

ただし、周囲の地表面との間に段差が生じて、出入りに支障をきたしたり、基礎が地表面に出てきたりすることがあります。

このような場合には、ガス管や水道管などが建物への引き込み部分で壊れることがあり、結果として地盤や基礎に液状化対策を行っていても通常の生活ができなくなることがあります。

ライフライン被害

ライフライン被害は、液状化による噴砂で排水溝が詰まったり、地盤沈下や下水管の浮き上がりによって下水が逆勾配になり、下水に排水できなくなったなどが起きています。

液状化による水道管の被害

下水道管は低い方に流れるように勾配が設けられているため、勾配が逆になると使えなくなります。

また、液状化対策がなされて建物や周辺の施設に被害がなくても、地区内のライフライン(ガス・上水道・下水道などの生活に必要な設備)に被害が生じたために、居住しつづけることができなくなる場合もあります。

参考文献:佐藤富男・若松加寿江:過去の地震における液状化による人的被害、土木学会地震工学論文集Vol. 27 

旧河道の液状化

液状化の被害は、海岸の埋立地だけでなく、利根川やその支流の小貝川・鬼怒川の旧河道でも液状化の被害が発生しました。

これらの旧河道は、河川改修工事によって蛇行した川を直線化して、元の流路を締め切ったことによってできた沼地を埋め立てできた土地です。

液状化によって、地下水が湧き出て、1mにも及ぶ住宅の沈下も見られました。

旧河道の液状化
利根川沿岸の旧沼地の被害、左端の住宅は約1m沈下(稲敷市役所提供)

液状化による健康被害

液状化被害による健康被害については、1964年の新潟地震以降本格的に調査が始まっています。

特有のものとして、傾斜による視覚障害や平衝感覚障害でめまいや吐き気などがあります。

もちろん個人差はありますが、傾斜が100分の1以上で障害が起こると考えられており、傾斜による被害認定では、100分の1で半壊と認定されることになっています。

傾斜による被害認定
引用:内閣府「被害認定調査・罹災証明書交付に係る補足資料」より

宅地の液状化に関する法制度

宅地造成等規制法と都市計画法があり、盛土の締固めなどの対策が義務付けられています。ただし地盤の沈下や崩壊に対するものであり、液状化については完全なものではありません。

建築基準法では、施行令第38条で建築物基礎の安全性の確保が規定されており、93条(2001年改正)で液状化の検討が盛り込まれましたが、木造2階建てなどの4号建築物では提出図書の省略が認められているため、大半の一戸建住宅には反映されていません。

さらに、国土交通省告示第1113号では、地盤の調査方法や支持力の決定法が示され、液状化の恐れのある地盤や軟弱な地盤に対しての支持力の定め方が規定されていますが、液状化対策方法などは明示されておらず不十分な状況です。

このように液状化被害に対する共通認識や対策の基準が近年まで存在していませんでしたが、東日本大震災の液状化問題を受け、2013年4月には国土交通省が技術的助言『宅地の液状化可能性判定に係る技術指針』を発表しました。

ただし、この指針の取り扱いについては、宅地の液状化に関する調査や対策を義務付けるものではありません。

このように、宅地の液状化に対する法的な制度は十分ではないため、東日本大震災では液状化被害を受けた住民から分譲販売した住宅メーカーが提訴されるまでに至っています。

浦安液状化訴訟で住民側が敗訴

東日本大震災で液状化被害を受けた戸建て住宅地(千葉県浦安市、36戸)の一部住民や、入船3丁目地区にある戸建て住宅(70戸)の一部住民、このほかにも舞浜3丁目地区の複数の住宅地の一部住民が土地・建物を分譲・販売した住宅メーカーに損害賠償を求め争っていましたが、これまでのところいずれの裁判でも住民側の敗訴が続いています。

判決が特に重視していたのは「予見可能性の有無」です。

これは危険な事態や被害が発生する可能性があることを事前に認識できたかどうか、ということです。

つまり重大な結果を予見できたにもかかわらず、危険を回避するための対応・配慮を怠った場合、過失を問われることになります。

判決は「東日本大震災の地震は同市内で震度5強であっても2分近い長継続時間地震であり、これまで想定されず、予見されていなかった地震である」、「揺れの継続時間の長短が液状化現象に大きく影響することはこの震災以降新たな知見となった」としてこの予見可能性を否定しています。

つまり、ベタ基礎以外に特別の液状化対策を講じていなかったとしても土地分譲会社と住宅メーカーに過失(結果回避義務違反)はなく、不法行為責任はないと結論付けました。

(参考:東日本大震災による分譲住宅の液状化被害について、販売会社の液状化被害発生の予見可能性を否認した事例

今後もこのような“想定外”が通用するとは限りませんが、現時点では住宅メーカーに液状化の安全性を担保してもらうのは難しいため、セカンドオピニオン等による情報収集や液状化対策が必要になります。

次回は、戸建住宅の液状化対策やマンションの液状化被害について見てみましょう。

タイトルとURLをコピーしました